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逃避
ゆーいちが飛び出したあと、しばらく動けなかった。
本当は身体中痛くて立ってるのも辛いのに、体が動かない。
____さわんな!気持ち悪い!
言われた言葉がいつまでも頭で繰り返し聞こえて、弾かれた手を握りしめた。
オレ、ゆーいちに嫌われた………?
本当に辛かった時期、唯一の居場所だった。
ゆーいち達家族はオレにとっての拠り所だ。
だからこんな最悪な世界で生きていけたと言うのに。
冷たい何かに首を絞められるような息苦しさが付きまとう。
何も考えられないまま、ふらふらとシャワールームにむかった。
蛇口を捻ると、冷たい水が頭からかかった。
今さら、傷付いたりはしない。
オレは汚い。昔から血の繋がった父親と何度もセックスをして、中で出されて、日本に来ても他の男にさんざん遊ばれた日もあった。
もう汚れきってる。
無造作にスポンジをとり、ボディソープで強く体を擦った。
身体中が痛い気がしたけど、そんなことより気持ち悪さが込み上げて気が狂いそうだった。
綺麗に、なりたい。
血が滲んだけれど手が止まらない。
強く乱暴に何度も体をスポンジでこすってこすって、涙が溢れた。
「………っふ」
ゆーいち、ゆみちゃん、パパさんやゆーすけ、あの暖かい家族のそばにいたかった。
汚いオレがそのことを必死に隠してでも、ずるくても。
ゆーいちは悪くない。
普通はみんな汚いって思うはずだ。
おかしいのは、こんな当たり前のことで傷付いてるオレだ。
「うーー…………っ」
オレは、何のために日本に来たんだろう。
一番知られたくない大切な幼馴染みにこんな嫌な思いをさせて、幻滅されて。
____リチェールは汚くなんかねぇよ。
優しく体を包んでもらったぬくもりをふと思い出して、また強く体を擦った。
こんなこと、あの人にだけは知られたくない。
もう何度も助けてもらったけれど、もう汚れたオレをあの人がさわることがいやだった。
優しいから、汚くないって抱き締めてくれたんだ。
その優しさに甘えてばかりのオレはますます卑しい部分を浮き彫りにされた汚ないモノに思えた。
どれだけ洗っても気が済まなくて、終わりが見えない苦しみだけが続く。
バスルームから出ても、部屋を見るとさっきまでそこでオレを犯す父親の姿が鮮明に蘇って、咄嗟に寝室に向かって近くにあったガラスの置物を投げた。
ひどい音を立てて粉々に割れる。
『____っくそ』
悔しい。
こんなにも汚いオレがどうして、あの人のそばにいれると思ったんだろう。
特別な何かになんてなれるはずないじゃん。
服を適当に着るとこの家に居たくなくて、家から飛び出した。
身体中が悲鳴をあげて、外は雨が降っていたけれど気にならなかった。
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