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腕の中

キスって、こんなに体が熱くなるものだったかな。 舌を絡め取られ、どうやって息をしたらいいかすら分からなくて、千さんの服をぎゅっと握る。 唇が離れて、スカイブルーの瞳と目が合った。 「そういう顔今見せるな。本当に襲うぞ」 そう言って頬を優しく撫でられて、ぎゅっと胸が苦しくなる。 千さんだって、そう言うこと言うのずるい。 本当に全部あなたで忘れさせて欲しいって思っちゃうじゃん。 「……オレも、忘れたい。千さん、オレのこと触るの嫌じゃない?」 答えを聞くことが怖くて、声が震えてしまう。 「嫌なわけないだろ」 千さんが、こう答えてくれることは分かっていたのにね。 でもそれって同情だってこともわかってる。 ……分かってるのに。 体を持ち上げられ、ゆっくりベットに落とされた。 することが怖くないかと聞かれれば、正直少し怖かった。 今までのセックスを思い返してもいい思い出なんて一つもないし、痛くて、苦しくて、屈辱的なものでしかなかった。 それでも千さんに触れられて、込み上げる気持ちはそんなもの一蹴してくれる。 「は。本当に嫌ではなさそう」 千さんがオレの顔を覗き込んで、どこか意地悪く笑う。 千さんに触られて嫌なわけない。 オレは、ね。 「怖かったらすぐやめるから、ちゃんと言えよ」 そう言って、千さんはオレの首筋に唇を落とした。 「………っ」 怖くなんか、ない。 それよりも早くしてしまいたかった。 千さんはオレを嫌ってないって、触って汚いなんて思わないって感じたい気持ちばかりが募っていく。 「………ん」 優しいキスが、どんどん激しくなるにつられて頭がうまく回らなくなっていく。 キスくらいで反応してしまう体がすごく汚く感じて、息苦しい。 千さんの舌がオレの首におりて、強く吸い上げ、声が出そうになるのを必死に押さえた。 他の人としたときは薬なしでこんなに感じることなんてなかったのに。 男のオレが感じてる姿なんてキモいだけじゃん。 声だけは我慢したいのに、どうしてこの人に触れられると、こうも反応してしまうの。 「……っんん」 手が服の中に入ってきて、指が肌にあたるだけで体が震えてしまった。 「リチェール、怖いか?」 優しい手付きで頬を撫でられ、ゆっくり目をあけた。 「怖くないよ……」 口元になんとか笑顔をつくって見せたけど、強がるオレを見透かすように千さんがふっと笑う。 「俺は少し怖い」 その言葉にどく、と心臓が震えた。 やっぱり、無理させたのかな。 オレのこと、汚いって思ってる? 不安で見上げると、千さんはどこか自嘲的に笑う。 「お前は怖くても言わないだろ。無理させて傷付けないか怖いよ」 「なん、で……」 「リチェールが大切だから」 ……その答えの意味を理解するより早く涙が目から溢れた。 そんなオレを千さんが優しく撫でる。 「ほら、やっぱ我慢してた。なに焦ってんだよ」 「だって………千さんに汚いって思われてないか、怖くて………っ」 「馬鹿だろ?」 途切れ途切れのオレの言葉を呆れたように千さんが顔を顰めた。 「俺がリチェールがいいって言ってるんだから黙って俺に愛されてろよ」 「なに、それ………っ」 オレがいいってなに。愛されてろってどうして。 「ほんと、泣き虫」 「うー」 からかわれるのわかってるのに涙が止まらない。 「愛してる」 「……っ」 「ふは。今度は赤くなった。 ほんと見てて飽きねぇな」 「オ、オレの方が愛してるっ」 「はいはい。いい勝負だと思うけど」 千さんの笑顔を見てると、さっきまでの怖い気持ちとか、一気になくなっちゃうから不思議。

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