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エゴイズム
バイトの話とかしながら料理を軽くつまんで、しばらく話していると、彼氏さんから電話がかかってきたみたいでルリが席をはずした。
その間にマナーモード設定にしているスマホを見ると、孝一から着信が17件も来ていた。
また酔って変な被害妄想してるんだろうと、ついため息を漏らす。
ルリが戻ってくるのが見えて、スマホをポケットにしまった。
「あと15分くらいで来れるみたい。
アキちゃん家まで車で送るって彼が言ってるから、乗ってってよー」
電話を切って、ルリが俺の手を握る。
お国柄なのか、スキンシップがこいつは多い。
「いやいいよ。俺ん家駅から近いし」
「だめだよー。アキちゃん美人さんなんだからあぶないよ。最近物騒だし」
こいつに美人だから危ないと言われても説得力がない。
「大丈夫だっての。ほら、出るぞ」
「えー、乗ってってよー。遅くなっちゃったしー」
会計を済ませて外に出ても、ルリは危ないから車にのっていけと腕に手を回してしつこく食い下がる。
お前は女子か、と言ってもえへへーと笑うだけ。
バイト先に迎えに来るみたいだから、その方向に歩きながら、今回だけは甘えさせてもらおうかと考えていた。
「……暁ァ!!!」
突然、怒りを含んだ叫び声に呼ばれビクッと振り替えると、凄い形相の孝一がたっていて、息を飲んだ。
今日は友達と飲んでるはずなのになんでここに。
そんな悠長なことは考えてられない。
孝一はお酒を飲んでいて、機嫌は最悪、おまけにここはバイト先のすぐ近くで、隣にはルリもいる。
孝一が大股で近寄ってきて、俺の胸ぐらを掴みあげた。
その目は血走っていて、殴られるかと、目を閉じたけど、痛みがない。
「なに、あんた」
そっと目を開くとルリが、俺をかばうように前に立って孝一の手を掴んで止めていた。
俺をかばうように立つ華奢な背中が数年前と重なり、息が詰まる。
「ル、ルリ!いいから!」
「良くないでしょ、なにこいつ」
いつもの間延びしたしゃべり方も、張り付いたような笑顔もなく、ルリが冷たく孝一を睨む。
「なんだよお前!どけ!」
「あんた今殴ろうとしてたよね。退くわけないだろ」
「────っ!退けって!」
切羽詰まったような表情で孝一がルリを殴ろうと拳を振り上げ、ルリは簡単に体を回転させながら避け、そのままハイキックを孝一の顔にぶつけようとした。
「っルリ!やめて!!!」
咄嗟に叫んでしまった俺の言葉にルリの動きは止まり、孝一の拳がモロに入った小さな体は簡単に地面に叩き付けられてしまう。
「ルリ………!孝一、なにやってんだよ!」
すぐルリに駆け寄ろうとしたけど、孝一の泣きそうな表情を見て体が固まった。
「ご、ごめん………だって俺、暁を………とら、れるって思ったから………」
殴ってしまった手を、ショックを受けたように見つめ、顔を真っ青にする。
ふらふらと頼りない足取りで俺の肩を掴んだ。
ぎりっと肩に孝一の指が食い込み、う、と声が漏れる。
「暁、捨てないで………」
「肩、痛いよ孝一」
顔をあげた表情はやっぱり泣いていて、俺まで泣きそうになる。
大きな両手で顔を捕まれ、親指が俺の口の端に爪を立てる。
口に少し血の味がしたけど、どうでもよかった。
「俺のそばにいて、暁……」
こんな姿の孝一を見ると、どうしようもなく胸が苦しくなる。
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