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エゴイズム
千side
リチェールの同僚二人は、茶髪の子が一人暮らししているらしく、今回問題になった子はその子の家にしばらく泊まることになったらしい。
二人が帰ったあと、俺の家に向かう車内はしんと静まり返っていた。
「…………千さん、怒ってるー?」
リチェールが顔色を伺うように首をかしげて俺を見上げる。
怒ってるか、怒ってないかで言えば、間違いなく怒ってはいる。
でも、リチェールは悪くない。
先輩を庇っただけだし、巻き込まれたわけなんだから。
でもどうしても、こいつがこういう性格だと分かっていても、怪我ばかり作るリチェールに穏やかにはいられなかった。
怒りをぶつけるわけにもいかず、かといって優しくできる自信もないから黙って淡々と運転をした。
「千さん、ごめんなさい。めいわ…」
「迷惑かけて、とか言ったら本当に怒るからな」
言葉を遮るようにきつい口調で言うと、びくっと小さな肩が揺れる。
泣くか?と、心配になり横目で見ると、どうしていいのかわからないようにうつ向いて手を膝の上で握っていた。
そのまま家についても互い終止無言で、何も喋らないまま静かに俺の後ろ付いてきた。
怖がってるはずなのに、ちゃんと後ろをついてくる健気さに、抱きしめたくなる反面、リチェールを見ると、嫌でも血の滲んだ大きなガーゼが目に入り、イラっとする。
今日はそばにいても、リチェールを傷つけてしまいそうで、タバコをいつもより吸って気を紛らわせた。
今まで人に対してこんなにどうしようもなくムカつくなんてことなかったはずなのに。
もう今日は寝てしまおうと寝室に向かおうとすると、くんっと後ろから服を引っ張られた。
振り替えると、リチェールが震えながら俺を見上げていた。
「嫌いにならないで……っ」
声まで震えていて、まるで怯えているようだった。
さっきまであんなにイライラしていたのに、こいつのこんな顔を見ると調子が狂ってしまう。
自分の危険を顧みないのはどうにか直してほしいし、少しは泣いてでも反省しろとさえ思ってたのに。
「おいで」
手を少し差し出すと、目に涙を溜めて腕の中に飛び込んでくる。
殴られたときも、学校で犯されてる最中も泣かなかった癖に、俺が少し冷たくするだけでこんなに震えて。
抱き締めると、その体は相変わらず華奢で折れてしまいそうだった。
「泣き虫」
「だって……せん、さんが……無視するから…っ」
「お前が悪いんだろ。
俺のだって言ってるのに他のやつに傷なんかつけられやがって」
「き、きらいに……っならないで……っ」
どれだけ自分に自信ないんだ、こいつは。
割りとストレートにどれだけ大切に思ってるか伝えてるつもりなのに。
「ばーか」
泣いてるリチェールの顔を持ち上げてキスをする。
相変わらずリチェールのキスは拙くて、舌をいれると一瞬短い舌で拒むようにするが、すぐに受け入れる。
「………ん、…………っんぅ」
少し苦しそうに声を漏らしながも、俺の服をぎゅっと控えめに握るのが可愛い。
大人げなかったよな。
リチェールがこーゆー性格だってわかってたし、俺がどんなに無理するなと言っても、してしまうんだろう。
唇を放すと、惚けた顔でリチェールが見上げる。
こうやってこいつは無意識に煽ってくるから、厄介だ。
「その怪我治ったら覚えとけよ」
「うん?……うん」
意味もわかってないくせに適当に頷き、俺が怒っていないことが嬉しいのかぎゅーっと抱き付いてくる。
「次こんなことあったら、一週間は絶対口聞かねぇからな」
「えっ。ぎゅーは?」
「だめ」
リチェールが不安そうに俺に引っ付いてくる。
ただ怪我すんなっていってるだけなのに、そんなに難しいことか?
まだなにか隠してるように思えてならない。
「お前は頭がいいから、ある程度は予測した上で飛び込んでいく傾向がある」
それは周りを巻き込まないためにだったり、誰かを庇うためだったりだけど。
自分の容姿にも疎いし、一度は未遂とは言え学校だけでも二回は襲われてるんだからそろそろ自覚してほしい。
「いつも自分を犠牲にする形を最善策としてとるな。
危険だと思ったらちゃんと俺に相談しろ。守ってやるって言っただろ」
頬を撫でると、顔が分かりやすく真っ赤になる。
可愛いけど、わりと真面目にいってるんだから照れてないでちゃんと聞いてほしい。
「……オレ、男だよー。多少の怪我なんて大丈夫だし、守られるようなことないよ」
「だめだっつってんだろ。お前は俺のなんだから言うこと聞け」
「うん。………オレ、千さんの」
だから、なんでそこで嬉しそうに赤くなるんだよ。
俺は女からもし、お前は私のだとか言われたら3秒で着信拒否にするのに。
本当にこいつは俺のこと好きだよなと考えると、どうしようもなく可愛く思えてしまって柔らかい髪を少し乱暴に撫でた。
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