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穏やかな昼過ぎ
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リチェールside
気がつけば寝てしまったみたいで、隣には千さんが静かに寝ていた。
千さんと体を重ねるのは2回目だった。
今までは、やられた次の日なんて起きることすら辛いくらい全身が痛んだのに、そんなのは全くなく恥ずかしいだけ。
意地悪で、激しいのに乱暴じゃない。
することが、痛くも、気持ち悪くもない、ただ愛しくてたくさん触れたいと思う行為だなんて知らなかった。
千さんが起きる前にシャワーを浴びようと、そっとベットを抜け出した。
切られたところが痛んで目を向けると、包帯が新しく巻き直されていた。
あのあと、オレはすぐに眠ってしまったのに、千さんが全部片付けてくれたんだ。
シーツも変えられてるし、住ませてもらってるんだからこれくらい家事くらいオレが全部やるのに。
せっかく巻いてもらった包帯をとって、シャワーを捻る。
鏡を見ると、服で隠れるか隠れないかくらいの鎖骨のあたりに赤い跡がつけられていて、顔が熱くなった。
オレ、かなり恥ずかしい姿見せちゃったよなぁ。
千さんは相変わらず余裕そうだったし、なんか悔しい。
昨日の恥ずかしい思い出を振り払うようにさっさと体や頭を洗ってシャワーを終わらせた。
「……………っ」
少し血が滲んでしまって、急いでガーゼで押さえた。
「痛むのか?」
背後から突然声をかけられて、びくっと振り替えると、今起きましたって顔して気怠げに千さんが立っていた。
「あ、おはよー。起きたんだー」
「今な。体大丈夫か?」
「うん?シャワーあびたから少し傷開いちゃったけどいたくないよー?」
「そっちもだけど、どこかだるかったりしないのか」
「え?……あっ」
千さんの言ってる意味を理解して、顔が一気に熱くなる。
「あ、そっちは、ぜ、全然、だいじょ……っ」
「ふはっ。お前顔赤すぎだから」
噛み噛みになってしまったオレをおかしそうに笑って、優しく手招きをする。
「ほら、包帯巻き直すからこっちにこい」
「ありがとう」
千さんの正面の椅子に座ると、着たばかりの服をめくられる。
「お前相変わらず手当て雑すぎだろ」
「おっかしいなー。オレ器用ってよく言われるのにー」
いつもの調子を取り戻そうと軽く笑う。
そしたら、千さんもはいはいって笑うから、暖かい気持ちになる。
千さんほど優しい人が一日冷たくするほど怒ってたのに、仲直りしてエッチしてもう元通りなんて、つくづく優しい人だなって思う。
「ほら、できた」
「ありがとー。いつもごめんねー」
「ほんとにな。もう怪我すんなよ、めんどくせぇ」
「はーい」
めんどくさいとかいって、オレが自分でしてた適当な手当てをわざわざやり直してよく言うよ。
オレの怪我にオレ以上に気にするくせに本当に素直じゃない。
「千さん、お腹すいたでしょー?ご飯なに食べたいー?」
「あー、なん……」
「なんでもいいはなしねー」
そう言うつもりだったんだろう。
千さんがムッと黙る。
だって千さんいつもなんでもいいって言うんだもん。いい加減毎日献立を思い付かないよ。
千さんが思い立ったようにチラシを手にした。
「たまには出前とるか」
「考えるのめんどくさくなったんでしょ。ダメだよー。出前とるならオレがお金出すからねー」
ただでさえ住ませてもらってるんだから、これ以上千さんにお金を使ってほしくない。
昨日の病院代のこともあるし。
千さんは絶対にオレからお金を受け取ってくれないし。
「なんで11も年の離れてる奴に金出させるんだよ。今夜はピザな」
「え、それならオレがピザ作るよー」
「だめ。お前もたまにはゆっくりしろ。ほら、なにがいい?」
「えと、なんでも」
「なんでもいいはなしなんだろ」
ほら早く、と急かさせて慌てて一つ選ぶと、千さんはさっさとピザ屋に電話をしてしまった。
「じゃあお言葉に甘えてごちそうになります」
というか、オレはいつまでこの家にいていいんだろう。
元々、父さんがいきなり来たから一時的に避難しただけであって、さすがにずっとはいれない。
「あ、千さんもう夕方になっちゃったけど洗濯したいから洗濯物あったらだしてね。お風呂は?」
「洗濯は明日でいいだろ。俺もお前も休みだし。
風呂は昼のうちに入ったよ。どっかのチビがイって寝たあとに」
「イってとか言わないでよ!」
そういえばシーツは変えられてたし、千さんの服もエッチする前と変わってる。
千さんの方が動いて大変なのに、つくづく申し訳ない気持ちになる。
「お前はあれこれ気を使いすぎなんだよ」
ぽん、と頭を撫でられ、なんとも言えない気持ちになる。
申し訳ないような、嬉しいような。
「ピザ混んでるみたいで届くの50分くらいかかるみたいだから、DVDでも借りに行くか?」
「え?」
「今日はどうせゴロゴロするだけなんだからいいだろ。ついてくるだろ?」
「いくいくー」
どうしたんだろう。
今日は特に千さん甘い気がする。
財布と携帯だけポケットに入れて、千さんの後を追った。
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