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穏やかな昼過ぎ
リチェールside
カーテンから漏れる朝日でゆっくり瞼を開けた。
隣を見ると千さんに腕まくらをしてもらいながら寝ていたらしくすぐ近くに顔があって一気に眠気が吹き飛んだ。
そういえば、昨日DVDを見てる途中で寝ちゃったんだ。
千さんが運んでくれたのかな。
なんかぼんやり一回起きた気がするけど覚えてないや。
今は外の明るさを見ると、たぶんまだ7時くらいかな。
「まつげながいなー」
千さんは本当に顔が整ってると思う。
オレのまつげは色素が薄いから、きれいな黒色のまつ毛が羨ましい。
目鼻立ちが整って、冗談みたいにモテるから不安がつきない。
でも、朝起きて千さんの腕のなかだと、やっぱり幸せだなって思う。
人の温もりがこんなに安心感を与えてくれるって知らなかった。
長いめの黒髪を少しどかして額にキスをする。
千さんは寝起きはそんなによくないから、起こすことなくそっとベットから抜け出した。
寝室を出るとリビングのカーテンを開いて天気がいいのを確認して洗濯を回す。
朝の洗濯って、気持ちがいい。
換気をしながら掃除機をかけると、朝食の準備に取りかかった。
黒のエプロンをつけて、冷蔵庫の中を確認する。
牛乳の賞味期限がそろそろだから、朝はパンにしよう。
フレンチトーストと、サラダとベーコンエッグとコーンスープでいいかな。
このキッチンにもなれて、こんな簡単な朝食なんて30分もしないで作り終わってしまい、ついでに昼御飯の仕込みも始めた。
キィと寝室のドアの開く音が聞こえて、手を止めた。
小走りで寝室に向かうと、パタパタとスリッパの音が響いてしまう。
「おはよー、千さん」
長身の体に抱きつくと、簡単に受け止められる。
千さんの顔はまだ眠たそうで、「はよ」と短く返事をくれた。
「ごはんできてるよー。顔洗ってきてー」
「はいはい」
洗面台に向かう千さんを見送って、朝食の盛り付けを始めた。
本当に幸せだな、と思う。
家事を広くてきれいなお家でしながら、好きな人に朝一番に挨拶をして、好きな人と並んで寝て。
ずっと続けばいいのにと思うけど、そうも言えない。
今の生活は千さんの負担になりすぎている。
千さんは優しいからそろそろ自分の家に戻れとか言えないんだろう。
オレから、そろそろ帰ると言い続けないと。
こんなにたくさん温かい気持ちをもらって、あの日の上書きだってされて、今更家に戻ることが怖いとはもう思えない。
けどやっぱり、寂しい。
「今日はフレンチトースト?」
後ろからすっとのびてきた手が4カットされたフレンチトーストを一つ掴む。
「あー、千さんいけないんだー。もう出来てるから座ってー」
すでにモグモグしてる千さんをテーブルに促す。
千さんの分のコーヒーと自分の牛乳をいれて、オレも席についた。
こういう風に声を合わせていういただきますも、当たり前じゃない。
多分すごく貴重な時間だ。
「今日はどうする?昨日が家でごろごろするだけだったから、行きたいとこあったら連れてくけど」
「んーん、暑いからいーや」
「お前すぐ熱中症になるもんな」
「イギリスは日本ほど暑くないからねぇ」
「体重のせいも少なからずあるだろ。そろそろ本格的に貧血改善気を付けろよ。夏休み明けには体育祭の練習はじまるぞ」
「鉄分サプリ飲んでるもーん。体育祭はサボるから心配しないで」
「体力ないんだからそういうのはサボるな」
「あーあーあー聞こえなーい」
朝のニュースをぼんやり見ながら他愛のない話を続ける。
今日はそろそろ課題をやろう。
得意科目はもう終わらせたけど、苦手科目の現国、古典と日本史が残ってた。
「千さん、勉強教えてー。あと現国と古典と日本史だけおわってないのー」
「まだ夏休み入ってすぐなのに他のはもう終わってんの?」
「学年トップ3に入る頭の持ち主をなめちゃいけませんよー」
「お前サボり癖さえなければ、本当に模範的な生徒だよな」
「あはは。よく言われるー」
ご飯食べ終わったら午前中は勉強を教えてもらうことになり、午後はまたDVDを返してそれからどこから、またごろごろすることになった。
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