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嫉妬

千side 昨日話していた通りに、リチェールは秋元と会うらしく俺が家を出るとき一緒に出掛けた。 臨海学校の時も思ったけど、秋元はリチェールに対してなにかと近い気がする。 リチェールは頭もいいし、警戒心もある方だけど、気を許した相手には驚くほど無防備だから、つい心配をしてしまう。 新学期が始まってすぐにある体育祭についての職員会議を、ぼんやりと聞き流す。 ほんの小一時間で役割分担なども終わり、職員室を出ようとすると、二年一組を持ってる佐倉に声をかけられた。 「月城先生。夏休みに入ってうちのクラスのルリ君の家に訪ねてくれてありがとうございます。僕が行く時は大体家に居なくて、一人暮らしだし心配してたんですよ」 リチェールの家に行ってもいつも会えないと言っていた佐倉に、そりゃ俺の家にいるからな、とはもちろん言えず、俺が様子見てきましょうかと提案して、元気だったというメールを少し前に送っていた。 「佐倉先生は原野のこともあるでしょうし、アンジェリーは体が弱いことでよく保健室も利用してるんで任せてもらって大丈夫ですよ」 「すみません。助かります。担任として悔しいですけど、ルリ君月城先生に懐いてますから。またなにかあれば教えてください」 「はい」 それだけ話すと、佐倉はクラスの問題児、原野の家に行くとバタバタ準備をして出掛けていった。 俺も今日はもう帰ろうと準備をしてると、今度は二年五組担任に持ってる竹田に呼び止められた。 「月城先生、今お時間いいですか?」 「なんですか?」 「実は二日前に折山の母親から電話があって」 めんどくさそうな話だと表情には出さずに内心ため息をついた。 竹田は言いにくそうに言葉を続ける。 「折山、もう学校に来るの苦だといってるらしいんです。 でも、月城先生にはなついてるでしょ? だから、一度会って折山の話を聞いてあげてほしくて」 佐倉と違って、竹田はとにかく他力本願で自分ではなにもしない。 しかし、折山が俺に懐いてる自覚はあるし、これも仕事だと納得するしかない。 「わかりました」 「よかった。じゃあ早速ですが今日会ってほしいんです」 「は?」 「えっ、だめですか?でも、もう折山の母親には今日の2時にって約束しちゃったし……」 こいつは申し訳なさそうにおどおどいうわりに、図々しい。  最初っから俺が断るって選択肢はなかったわけね、と嫌味のひとつでもいってやりたい。   しかも2時って30分後だし。 「2時に折山が学校に来るんですか?」 もう竹田との会話がめんどくさくなり、さっさと終わらせようと聞く。 「いえ、学校出てすぐのファミレスで。 学校だと、他の教諭に気を使って折山が緊張するんじゃないかってことで」 もう、いちいち突っ込まない。 「わかりました。じゃあもう時間ないんでその場所に向かいますね」 苛立ちは一切態度には出さずに、笑ってその場を離れた。 後ろでたまたま近くにいた他の教諭に竹田がどつかれてたのはわかったけど、気にしなかった。

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