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嫉妬
信也side
気付けば、ふわふわ揺れるプラチナブロンドの髪を目で追っていた。
雄一がイギリスにいた頃の友達らしく最初の印象は、すごい美人だなとか、女みたいな顔だなとかそれくらい。
いくら女みたいな顔してたって相手は男だから、特になにも思わなかった。
それに、美形と言ったらこの学校では別格の月城先生がいたし、あの人の方がよっぽど目を引くと思う。
それでも、いつもへらへら笑う顔に癒されたり、のんびりした雰囲気に心地よさを感じてるうちに少しずつ特別に思えていった。
雄一と揉めたと聞いたときはびっくりしたけど、理由は聞かなかった。
理由を聞いたら仲直りする手助けを手伝わなきゃいけない気がして。
それなら、ルリや雄一には悪いけどこの状況をうまく使わせてもらおうと思ってしまう。
「ルリ、どこいくの」
「んーこの近く長居できそうなカフェなかったかなー?」
月城先生にしがみついてたぶん泣いてた小柄なショートカットの女の子を見てからルリの様子が少しおかしい。
笑ってるけど、傷付いてるみたいだなって思う。
真後ろの席だったから、さすがに生徒である俺たちに会話を聞かれたくないだろうって気を使って店を出たはいいけど、行き先を決めていなかった。
「俺の家、近いけど」
「えー?いきなり行ってお家の人困らせたくないからいいよー」
「両親旅行中でいないよ」
今日も暑い。本当にかなり暑い。
そんな中、歩き回ってると頭もクラクラしてくるし、早く冷えた部屋に入りたかった。
ちらとルリを見るとぼーっと一点を見つめていた。
「てかさぁ、ルリ先生のこと好きでしょ。割りと本気で」
「うん、すき」
さらりと答えられ、自分で聞いた癖に軽く傷付く。
まぁ、ルリが先生といるとき、普段と少し違う表情を見せてたからなんとなくそうかなって思ってたけど。
「あー、まぁうち男子校だってのに、生徒の半数は一回はあの人好きになるっていうよな。
まぁあの人かなり遊んでるらしいしやめといた方がいいんじゃない。
さっきも女の子泣かせといてさぁ、撫でてたし」
「あははー。ほんとだねー」
「ま、応援はするけどね」
我ながら性格悪いと思う。
不安を与えときながら、自分はいいポジションにいるんだから。
「てか、今日ほんとあっつい。早くどっか入ろ。もう俺の家でいいでしょ?」
「………………」
「ルリ?」
返事がない。
振り替えると、少し後ろで蹲っていた。
「ル、ルリ!?どうしたの!?」
「…………ごめ、ちょっと、目が回って……」
「大丈夫!?」
「…だいじょうぶー……」
大丈夫じゃないだろ。
なに、熱中症?たしかにイギリスは日本より涼しいし、ルリは普段から暑さに弱いけど、さっきまで普通に笑ってたのに。
ああ、そうだよ、ルリってキツくても笑うやつだよな、と思い出す。
う、と口元を押さえる姿に吐きそうなのかと思う。
「とにかく涼しいとこいくよ!乗って!」
大丈夫だと笑おうとするルリを無理矢理背負って、すぐ近くの自分の家に向かった。
________
小走りで自宅につくと、急いでエアコンをつけた。
ルリをソファにおろすと意識はなく、体は熱いのに汗も全然かいていないことに焦る。
ファミレスを出てから歩き回る時間は確かにちょっとながかったかもしれない。
部屋が冷えるのにも時間がかかるし、どうしようと悩んで、風呂場につれていって、服を着せたまま頭から冷水をかけた。
「んっ」
びくっとルリが意識を取り戻し、焦点の合わない目でぼーっと俺を見上げた。
「………千さん?」
「え?」
ぽつりと呟くと、ルリはハッとしたように瞳に俺を映した。
「………ごめんシンヤ、もしかしてオレ倒れたー?」
そしてすぐヘラリと笑い申し訳なさそうに謝る。
倒れたことなんてどうでもいい。
千さんって?月城の下の名前?
珍しい名前だと思ったからよく覚えてる。
そういえば、月城も珍しくルリのことは名字ではなく名前で読んでる。
別に、日本人からしたらリチェール・アンジェリーってどっちが名字でどっちが名前かわからないから、そんなに気にしてなかったけど。
もや、と黒い感情が渦巻く。
「………ルリ、とりあえず立てる?
水飲みなよ。部屋もそろそろエアコン効いてるだろうし」
「うん。立てる立てるー。ここシンヤの家?ほんと迷惑かけてごめんねー」
「別に迷惑だなんて思ってないよ。体調悪いの気付けなくてごめんね」
「なんでシンヤがあやま………っ」
「と、」
立ち上がろうとしたルリが、立ちくらみを起こしてそのまま前に倒れそうになったのを間一髪支える。
俺が水をかけたせいで濡れた体が、そのまま俺にも伝った。
「ご、ごめん!シンヤまで濡らして……っ」
「いいよ。てか、元々ルリ濡らしたの俺だし。
でも体調悪いなら無理しないで。ちゃんと頼ってよ」
すぐ離れようとするルリを抱き寄せて止める。
何て言うか、こいつって妖しい雰囲気あるよな。男を誘惑するような。
いつもより近くに感じる、柑橘系の香水が、髪から匂う甘い香りと混ざって、体が疼く。
「シンヤ………?」
濡れた長めの前髪から覗く大きな瞳が俺を映す。
暑さのせいでとろんとした表情は小さな口を少しだけ開けて、なんかエロい。
「………ルリってさ、俺のことどう思ってる?」
「あはは。なにその質問ー?いい奴と友達になれたなって思ってるよー?」
そうだよな。大事な友達だ。
そのポジションでいいと思ってた。
いくら男子校だからって男が恋愛対象に入るわけない。
………ないのに。
俺の腕から、さりげなく抜け出そうとするルリをもう一度強く包み込む。
「俺もルリのこと大事な友達だって思ってたよ」
この言葉に嘘はない。
そう思いながら、ルリの体を浴室の壁に押し当てた。
痛そうに、う、と顔をしかめるルリの顔にまたぞくっと疼く。
「でもずっと、ルリのこと壊してみたいとも思ってた」
月城しか見てないルリのなかに乱暴に俺を刻みたい。
そのまま、ルリの小さな口に無理矢理噛み付くようにキスをした。
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