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気持ちの行方

信也side 通話を切って、携帯をソファに向かって叩き付けた。 あの声、たぶん月城だよな。 なんだよ、あいつ。 たくさん女いるって噂耐えないし、遊び人って有名だし、相手なんて腐るほどいるくせに、なんでルリまで。 ルリは、ルリだけは特別だった。 電車でお年寄りが座れないことがあった。 他校の男子生徒が席を占領していて、ルリが声をかけたんだ。 お兄さんたち座れない人がいるから譲ってあげようよ。って。 俺はルリが開けた席にお年寄りの手を引いて連れていっただけ。 正直、ルリが他校の生徒に声をかけた時は、何面倒なことしてんのって思ったのに。 "シンヤは優しいね" ルリがそんなふうに笑ったあの日、俺は自分の気持ちを自覚した。   明るい印象を残すくせに、たまに儚げで、切ない。 人懐っこくて、甘え上手。 そしてそれが全部甘えたふりなのだと気付いた。 ルリは他人に頼らないし、感情も見せない。 でも、ルリの優しさだけは本物だといつも感じてた。 そんなルリの、特別になりたかった。 乱暴にでもいいから強く俺を刻みたかった。 もう友達に戻れない。 俺を見て笑ってくれないかもしれない。 それでもいいからと、決死の思いだったのに。 ルリはもう月城のものだったんだ。 あの時間に、ルリのスマホにでたってことはもう間違いなかった。 月城は、ずるいだろ。 顔も校内一のイケメンで、身長だって高いし、相手は大人だ。 遊び人で有名だからさぞセックスも上手いんだろう。 言われた通り、俺はガキ臭くがっついただけだ。 何一つ勝てるものがなくて、拳を握った。 ずっと見ていたからわかる。ルリは月城ばかり追っていた。 叶うはずないじゃん。 「…………あぁ、くそ」 失恋って、結構こたえるんだな。

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