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気持ちの行方

リチェールside 雄一と仲直りできて、数日がたった。 夏休みももう終わる。 食べ終わったお皿を洗ってテーブルを拭くと、すでにソファに移動して新聞を広げる千さんに新しいコーヒーを出した。 隣に座ると、さりげなくタバコを反対の方に持ち変えてくれる。 「千さん、今大丈夫?」 「ん。勉強?」 「んーん。ちょっと話があって」 そう言うと、すぐに見ていた新聞を閉じてテーブルの端に置いてくれた。 「あのね、オレそろそろ家に帰ろうかなって思って」 千さんがソファに頬杖をついてオレを見る。 ああ、嫌だな。 本当はずっとここにいたいのに。 「何日も家開けれないし、さすがに申し訳ないしねー」 「お前のその申し訳ないってなんだよ」 「だってそうじゃん。ここは千さんの家だし」 もう少しで夏休みが終わり、新学期が始まる。 いい一区切りだと思う。 千さんは優しいからオレに出ていけなんて言わない。 だから、オレから切り出さなきゃと思っていたら、もう一ヶ月もたってしまった。 「またリチェールの父親がきたらどうするんだよ」 「汚ねぇな、抱かれるしか脳のない代用品が。って、言われたんだよ? もうあの人からオレに関わってくることはないよ」 千さんがぴくっと眉を潜める。 なんでオレが言われた言葉なのに千さんの方が敏感になってるの。 千さんの顔を見てると切なくなってしまう。 どうせ学校で毎日会えるし、それこそ付き合ってるんだから時間を合わせることもできる。 でも、一緒に寝たりご飯食べる回数は確実に減る。 「………まぁ、お前が自分の家に帰りたいなら止めねぇよ」 帰りたいわけないだろ。 ずっとここにいたいよ。 でも、そうするわけにはいかないから。 「明日、帰るね」 笑って返事をすると、トイレに行くふりをして部屋をあとにした。 オレの1DKの家とは違って広い家。 リビングもキッチンもベランダさえも広い。 洗濯物も、シャンプーも普段オレが使ってるものと違って、千さんの匂いに包まれる日々は終わるんだと寂しく思う。 「はーーーー!」 涙がこぼれそうになって大きくため息をつく。 泣かないけどさ。いつからこんなに弱くなったのか。 洗面所の二つ並んだ歯ブラシを捨てようと手を伸ばす。 「リチェール」 名前を呼ばれ、びくっと体が跳ねる。 いつの間に来たのか千さんが壁にもたれて立っていた。 「んー?どうしたのー?」 寂しいって言ってしまったら、千さんはここにいろって言ってくれるだろうから悟られないように何でもないように笑う。 千さんは教師だから、オレと住んでるとこが学校にばれてただで済むわけないんだから。 そう自分に言い聞かせた。 「冬休みにお前の両親に会いに行くぞ。 色々落ち着いて、手続きまでしっかり終わらせたら……」 千さんの手がゆっくり伸びてきて、オレの頬を撫でた。 「その時はもうリチェールにこんな顔させねぇよ」 千さんの真っ直ぐな表情に、息がつまる。 オレの親になんて会ってどうするの。 何も変わらないよ。 「……………せ、」 だめだ。言葉がでない。 何て言ったらいいのか、わからない。 短く見ても、オレが卒業するまでだ。 それまでは色々わきまえなきゃいけない。 じゃなきゃ千さんに迷惑がかかる。 「リチェールの考えなんて手に取るようにわかるんだよ。 お前はさ、色々と心配しすぎ。 気になるなら、気持ちは汲んでやるけど。 少しは困らせたり迷惑かけてもいいんだから、考えすぎるな」 引き寄せられて、片手で抱き締められる。 迷惑かけてるでしょたくさん。 千さんはいつもそうだ。 「………じゃあ、わがまま言うけど。週末はいつも泊まりに来たい」 「ああ、そんなこと。いつでも来たらいいだろ鍵持ってるんだから」 「あと、一日一回はこうやってぎゅーってしてほしい」 「ふは。お前のわがままは安上がりだな」 「そんなことないよー。オレ今すごくゼータクしてる」 ぎゅーっと千さんに抱き付くと「いたい、いたい」と笑ってくれる。 好き。大好き。 この人はオレをどこまで甘やかしたら気が済むの。 「千さん、好き。大好きー」 「はいはい」 「すごくすごく好きだよー」 「知ってるって」 「ちゅーしていいー?」 千さんが身長高いから、背伸びしても届かない顔に両手を添えると少し屈んでくれる。 唇が触れると、どんどん深くなる口付けに目を閉じた。

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