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新学期
田所先生がいなくなって、すぐに携帯をポケットから出した。
まずは草薙さんに電話して、課題が増えて出勤時間が遅れることを何度も謝りながらお願いした。
草薙さんは快く二つ返事を返してくれて、電話を切る。
次は千さんにメッセージを送ろうと、アプリを開いた。
"千さん、オレ今日から一週間、古典の田所先生に目つけられて、居残りすることにな"
「なにしてる」
ギクッと顔をあげると、怖い顔した田所がいつのまにか戻っていてオレを睨んでいた。
別に携帯の持ち込みは禁止されてないし、授業中以外の使用は大丈夫なはずだ。
文章を打っていた画面を直ぐに隠してたから見えてなかったよな。
「歯医者予約してたんでキャンセルの電話をしようとしてましたー」
嘘だけど。
これなら怒る理由にはならないだろと適当に言う。
「俺は教科書を開いておけって言ったんだ。それは没収だな」
は?と、口から思わず漏れた。
いや、この学校で携帯没収されたの、授業中に何度注意しても触ってたヤツくらいだろ。
「ほら、かせ。一週間後小テストの成績が上がってたら返してやるから」
話が通じるとも思えなくて、色々言い返したい気持ちを押さえ、わかりました、と電源を切って携帯を渡した。
「じゃあ教科書97ページから開いて」
反論しても、多分この人は譲らないだろうし、返してもらうのが長引くだけだ。
とにかく、成績だ。
ぐだぐだ言ってないでこいつが文句言えないくらい成績あげるしかないんだと言い聞かせて、真面目に話を聞くことにした。
「ああ、それと。俺は生活指導も担当だから、ちょっと体調が悪いからって今後は保健室には行かせないからな。授業には全部出てもらう」
お前に言われる筋合いねーよっと思ってしまう。
てか、オレより不真面目な生徒はたくさんいるだろ。
なんだか、本当に厄介な奴に目をつけられてしまった。
てか、何度も思うけど、オレ別に古典の成績悪いってほどでもないからね。普通だっての。
「返事は?」
「わかりましたー」
ああ、もう、ムカつく。
学校は我慢を覚えるところだからって昔学校嫌いだったゆーいちにゆみちゃんが言っていたことを思い出した。
さすがだね、ゆみちゃん。
そう思うとオレも気持ちに落とし所をできた気がする。
ひたすら真面目に勉強することで気をまぎらわせた。
その日の居残りは外が真っ暗になるまでとことんさせられた。
てか、千さんは顔や態度には出さないけど、たまに家に仕事を持ち帰ることもあるくらい、忙しそうなのにこいつなに。
生徒いびりをするくらいには暇らしい。
__________
居残り勉強が始まって4日がたった。
携帯とられてて千さんと連絡の取りようもないし、会いに行こうにも移動教室以外の休み時間は全部田所先生が来て何かと仕事を手伝わされていた。
サボることももちろん許されなくて、朝も早く来るよう言われ勉強をしていた。
遅く出勤する分、バイトも終わる時間は遅くなったし、家に帰ってからも普通の課題とは別にたくさんの宿題を出されて、寝る時間なんて三時間あるかないかだ。
とにかく一週間後の小テストだ。
それでいい点さえとれば、週末は千さんに思いっきり甘えよう。
千さんの家でのんびりごろごろして、二人で昼寝とかするんだ。
「ルリ、お前顔色やべーけど」
「うん、死にそう」
ゆーいちがやってきて、心配そうにオレを見る。
田所先生に渡された宿題を解いていた手を止め顔をあげれば、不真面目な生徒が昼前の今ごろ登校してきて、羨ましく思う。
「てか、なんで本当オレばっか目ぇつけられるのー」
「あいつ気の弱い奴ばっか構ってるからな。お前ナメられてるんじゃない。ほら、今頃登校してきた原野とか成績結構悪いし、身長も小さいのに口悪いから田所はああいうのにはちょっかいかけねーもん」
「でも反抗してもしょうがないしさー。
文句言えないくらい成績あげたらあいつの授業もサボってやるー」
「お前、教師側からしたらめっちゃ扱いやすいな」
自分でもそう思う。
でも投げ出すのもなんとなく悔しいじゃんね。
「てか次科学だぞ。早く準備しろよ」
「ごめん、先行っといて。あと一問解いたらいくー」
嘘。本当は、移動教室の前に、コンビニでかった眠気覚ましのドリンクを飲もうと思って、ゆーいちを先に行かせた。
準備をして、サプリメントとカフェインのドリンクを一気に飲んで、立ち上がった。
ふらっと目眩がしてため息をつく。
オレ、本当軟弱だなぁ。
たしかに季節の変わり目は必ず体調を崩すけど、ちょっと寝不足なだけで、ふらつくなんて。
親からの仕送りは未だに多すぎるくらい送られてくるけど、手をつけたくなかった。
オレはあいつらの手助けなんて必要ないんだっていうプライドだ。
勉強だって両立させて見せるって変なプライドで、自分の首を絞めてるのはわかる。
ああ、科学室まで遠い。
そろそろ衣更えの時期だから、カーディガン持ってきたらよかった。
少し肌寒い。
ふらふらゆっくり歩いてると、後ろからいきなり口を塞がれた。
「……………………っ!?」
ぞわっと校内で犯されたことを思い出して血の気が引く。
抵抗しようとするのに、体が凍ったように固まって、抵抗できないまま空き部屋に入れられた。
息さえもつまって、ひっと声が漏れた。
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