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新学期

千side リチェールの体を綺麗に拭いて、服を着させてやると、その体を持ち上げた。 相変わらず、心配になるくらい軽い。 45キロはさすがにあるよな。 いやあるか?50キロは下回ってしまってるだろう。 体力がないからやってる最中に意識を飛ばすことはあっても、今日はさすがに早すぎだ。 顔色最悪に悪かったし、やっぱり無理をしてたんだろうと、ため息をついた。 家庭科準備室を後にすると、小さな体を抱えてゆっくり保健室に向かった。 ただでさえ低い体温が今日はよりいっそう低かった気がする。 キスをしたとき、コーヒーの濃い匂いがしたから、眠気覚ましにカフェインドリンク剤を飲んだんだろう。 こんな無理矢理寝かすようなやり方でしか素直に休みさえしないリチェールは本当にあぶなっかしい。 「月城先生!」 あと少しで保健室って所で名前を呼ばれ振り替えると田所が苛立った顔をして立っていた。 「なんですか?」 「またその生徒は授業をサボったんですか?」 「いえ、男子トイレで倒れてました。 元々貧血気味で体の弱い生徒なんで、少し無理したんでしょう」 本当は校内でセックスした緊張でぶっ倒れたんだけどな、と内心悪態をつく。 「たまたま?本当に?」 「顔色悪くて無理してるって彼の友人から聞いてたんで気にはしてましたよ」 「………そうですか。とりあえず、その生徒は少し問題があるので、起きたら僕のところまで来るように伝えてもらっていいですか?」 お前の方がよっぽど問題だっての。 倒れるまで生真面目に勉強するこいつのどこが問題なのか逆に聞きたい。 「いえ、倒れたくらいなんで。今日はこのまま車で家まで送るつもりです」 「は?月城先生は少しその生徒に肩入れしすぎじゃないですか?」 すぐに声に怒りが混じる田所にすっと眼を細める。 こいつ、本当にリチェールにこだわりすぎだろ。 「ええ、まぁ。心身のどこかが丈夫じゃない生徒は気にするようにしてますよ?仕事なんで」 日本に来てまだ半年もたたないクォーターが古典で平均点数をとってるのに居残りさせるお前に言われたくねぇよ、と意味を込めて薄く笑うと、田所が息を飲む。 こいつたしか俺と同じ歳だよな。 28にもなって、こんなに感情が顔に出るのはどうかと思えてしまう。 「とにかく!あまりその生徒を甘やかしすぎないでくださいね!」 捨て台詞のように吐き捨てて田所が去っていく。 教師があんまでかい声出すなっての。 保健室につくとベットにリチェールを寝かせて、タオルケットをかけた。 もう冷房はつけずに窓を開けるだけで秋の心地いい風がふいている。 コンコンとノックする音が聞こえて、返事をすると、折山が入ってきた。 「………お、はようござい、ます」 おどおど言われた言葉に、おはようと返事をすると、嬉しそうに近寄ってきた。 「最近は毎日学校に顔出せて偉いな」 「うん………先生の、おかげ……」 「折山が頑張ってるからだろ」 折山が柔らかく笑ってテーブルに鞄を置く。 中から筆箱とノートと教科書を開いて勉強をしだした。 最近の折山は本当に安定して偉いと思う。 「分からないところあったら言えよ」 「うん……あ、じゃあ早速数学なんだけど……ここ、昨日解けなくて……」 「ああ、ここか。折山は図形が苦手だな」 ぴったり引っ付いて質問してくる折山の気持ちは正直伝わっていたけど、気付かないふりをして淡々と勉強を教えた。 肩入れしてると言われれば、端から見たら断然折山にたいしてしてるように見えるだろう。 俺からしたら全然そんなことないけど。 田所のあのリチェールへの拘りが引っ掛かって、またしばらく注意して見なければいけないことが増えたと、小さくため息をついた。 「先生、あそこ、カーテン閉められてるけど、誰かいるの………?」 たまに誰かが寝てることなんてよくなるのに、今日に限って折山がカーテンの閉じられたベットを不安そうに見つめる。 「僕、柑橘系の香水嫌いなんだよね……」 ああ、匂いか。 リチェールはたしかに柑橘系の香水をつけてるけど、ほのかにしか匂いのないさっぱりしたものだった。 「へぇ。人の香水とか気にしたことなかったわ。まぁ生徒が寝てるから、静かにな」 「うん……」 前回、折山と昔の仲間の問題にリチェールが巻き込まれてから、折山はリチェールが苦手になった。 折山からしたら助けられたとは言え、リチェールもトラウマの対象なんだろう。 「じゃあ次の問題な」 折山はもっと構ってほしいと、アピールするように感情をすぐ顔に出すけど、気付かないふりをして教科書を捲った。

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