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先生の友人

にこにこしてる蒼羽さんがなにを考えてるかわからなくて、つい探るように見てしまう。 「はい、少しだけ聞いたことありますよー」 「それってさ、どこまで?」 どこまで? オレが知ってる以上のことを多分蒼羽さんは知ってる。 この人はオレが知らない千さんのことをなんでも全部知ってるんだと思うと、一気に気持ちが沈んでいくようだった。 「………あの時は、多分千さんも教えたくて教えてくれたわけじゃなくて。 オレが当時色々問題があって、千さんもオレを素直にさせるためにというか、オレが、無理矢理聞き出したような形になってしまったんで、そんなに詳しくは……」 言葉を選びながら、表情だけは笑顔を崩さないように話すと、ふーんと蒼羽さんは含みのある笑い方をして、にこっと表情を明るくした。 「心を開かないのは相変わらずなんだー。よかった。 僕には、なんでも全部話してくれたよ」 その言葉に心臓が鋭く痛む。 蒼羽さんと千さんは昔からの友人で、きっと千さんの色んなことを隣でずっと支えて来たんだろう。 オレは頼ってばかりで千さんを助けてあげれたことは一度もない。 千さんが傷ついてたり、疲れてたりするとき、オレはなにも出来ない。 息がつまりそうなくらい歯がゆくて、苦しい。 「ごめんごめん。リチェール、そんな顔しないで。ちょっといじめたかっただけ」 突然、蒼羽さんがいたずらっぽく笑ってオレの頭を撫でた。 「え?」 「本当その傷付いてるのに笑ったままの癖直した方がいいよ。いじめたくなる」 オレ、笑ってた? 千さんもよくこんな時に無理して笑うなって言う。 自分ではよくわからない。 「千は昔からあの顔だし、月城医院のご子息でしょ?すごくモテてさ。厄介なのに当たることも多かったからごめんね、試しちゃった」 「なにが…」 「それと、ちょっとした友達の嫉妬だから。 だって今まで何年も一人だった千が初めて特別な子を作ったんだよ?妬くでしょ、そりゃー」 また楽しそうに蒼羽さんはケラケラ笑うけど、まだついていけない。 「リチェールがいい子っぽそうでよかったよ。 弱ってるフリして千の面倒見のよさに付け込むやつなんて腐るほどいたからさ」 それをいったら、オレもだよ。 付け込んで、好きだからって千さんの迷惑も考えないでそばにいる。 「オレもそうですよ。千さんの優しさに強かにつけこんでます」 「そういう子は自分で言わないよ。それに千もそんな子相手にしないから。わかってたんだけどねー。どうしても心配になるでしょ」 もう一度蒼羽さんはオレに向き合って微笑んだ。 「安心して。 千は君に心開いてるし、特別だって」 「そんな、オレなんて……」 嬉しいけど、申し訳ない。 あんな優しい人に、オレなんかが愛されることも。 オレなんかがヤキモチを妬くのすらおこがましい気がする。 「リチェールはさ、いい子でいようとしすぎなんだよね」 ソファの背もたれに頬杖をついて、蒼羽さんがオレを見る。 「少しは困らせてやったらいいんだよ。 僕にだからじゃなくて、千にもさっきの調子で笑ってばっかなんでしょ。頼ってやった方が千も嬉しいよ」 「いやいや、頼りっぱなしで迷惑かけっぱなしですよー。 申し訳ないくらい」 「全然足りないよ。てか、あの千が誰かのために悩むとかさ、面白すぎでしょ。 僕も見てみたいし困らせちゃえ」 「………っふふ」 蒼羽さんがいたずらっぽく本当に楽しそうにケラケラ笑うから、オレもなんだかつられて笑ってしまった。 蒼羽さんと話してるとすごく気が楽になる気がした。 男同士だし、教師と生徒という立場で後ろめたさはあるけど、なんだか千さんの一番近くにいる人に認められた気がして、気持ちが強くなる気がした。

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