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先生の友人

お風呂を上がると相変わらずリビングからは二人の楽しそうな笑い声が聞こえてきて、懐かしい手料理の匂いがした。 「あ、千戻ってきた」 「千さん!蒼羽さんがつまみ食いするー!」 「いいじゃん。リチェールのケチ。ちび」 「ねぇ、今のちびって悪口必要だったー?」 リチェールの顔色は相変わらずよくなくて、寝不足が見てわかる顔だけど、無理して笑ってる感じはない。 まぁこの二人は元々性格的に合うだろうと思ってたけど。 「蒼羽さん、お酒もう飲むー?」 「よろしく」 「はーい」 今日の晩飯は、ササミのサラダディッシュに鮭のムニエルとコンソメスープに、不似合いなほうれん草のお浸しがテーブルに並べられた。 「和食も練習中なんだけど、中々味の感覚が分からなくて。いつも洋食ばっかでごめんね、千さん」 お浸しを起きながら恥ずかしそうに笑うリチェールを思わず撫でる。 別に毎日洋食でもいいのに。 本当にリチェールは努力家だ。 冷凍庫から、冷えたグラスをとって蒼羽に酒を注いだ。 「グラスまで冷やしとくなんて、リチェールちょっとやりすぎじゃない?」 「そうかなー?ほら、いちおーオレ、バーテンダーだしー?」 えへへって笑いながら蒼羽とじゃれる姿はなんとなく面白くない。   いただきますと、手を合わせて料理に手をつけるとリチェールがフライングとかいいながら焦って俺の隣の椅子に腰かけた。 久しぶりに食べたリチェールの料理は、美味しくて懐かしい。 「蒼羽さん、どうかなー?お口に合うといいんだけど」 「んー?普通に美味しいよ」 「よかったー」 「お浸しは不味いね。どうやって失敗すんの?茹でて麺つゆかけるだけじゃん」 「ごめんねー。今度リベンジする〜」 早々に空になった蒼羽のグラスに酒をついで、俺と蒼羽の取り皿に料理を盛る。 「リチェール」 「んー?なぁに?」 働いてばかりのリチェールの口にムニエルを一掴み押し込むと、うみゅ、と変な声を出して固まる。 「お前も食えって。じゃなきゃ薬も飲めないだろ。 それと、お浸し美味しくできてる」 驚いた顔が見る見る赤くなる。 今さら間接キスぐらいで赤くなるなっての。 手で口元を押さえながら口にはいった鮭を飲み込み、もう!と抗議の声をあげる。 「オレ、自分で食べれるよー」 「俺も自分で取って食べれる。あと、蒼羽にもそんなに気ぃ使わなくていいって言っただろ」 「えー!僕はリチェールにいれてほしい!このパシリ有能だよ千!」 「ほら見ろ、蒼羽が調子に乗った」 リチェールはそのやりとりを楽しそうにクスクス笑いながら、ようやくチマチマ食べ始めた。 食べ終わると、さっさと俺と蒼羽はダイニングスペースからリビングに移動させられ、テレビを見ながらソファで蒼羽の酒に付き合った。 リチェールは食器を洗ったり、テーブルを拭いたりしてる。 食器洗浄機だからすぐ終わるとは言え、これじゃまるで俺が亭主関白みたいだ。 「これおつまみになるかなー?」 カプレーゼと、野菜のバーニャカウダーを手早く作ってテーブルにのせるリチェールを軽く睨むと困ったように笑われるだけだった。 「じゃあ、オレは先に寝るねー。蒼羽さん、オレに気にせずゆっくりしていってねー」 「うんうん。千とラブラブしてるから、リチェールはさっさと寝ちゃってー」 「だ、だめ!」 「あははー!リチェールで遊ぶのほんと面白い」 リチェールは、少し顔を赤くして本当に寝るのをやめたように辺りの細かい掃除を始めた。 「リチェールいいかげん寝ろ。 蒼羽も。リチェールいじめていいの俺だけだから」 「うわっ。千ってば嫉妬ー?ウケる」 ケラケラ腹を抱えて笑う蒼羽にクッションを投げつけ、リチェールをつれて寝室に向かった。 「明日の夜は古典見てやるから。昼休みでもいい。 とにかく今日は寝ろ」 ベットに入るように促すとようやくベットに潜り込んだ。 「千さん、好きだよー。大好き」 「知ってるよ」 「おやすみ」 「ゆっくり寝ろよ」 「はーい」 ようやく目を閉じたリチェールの頬を撫で、寝室を後にした。

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