162 / 594

電車

「で、どこまでされた?」 千さんが少し体を放して、オレの表情を見るように覗きこんで来る。 まっすぐ見られて、少しでも嘘をつくとすぐバレそうにさえ思える。 「普段はお尻触られるくらいだよー? でも、最近は耳を噛まれたり、舐められたり、服の中に手を入れられたり、えっと……直に胸とか、触られたり、ベルト外そうとされたり……」 「……………」 「さすがにベルト外そうとされた時は手を思いっきり引っ掻いてやめさせたよ!?」 千さんの顔が険しくなったから、急いで訂正するように言う。 「それで相手はやめるのか」 「舌打ちして痛いことされるから滅多に抵抗しない」 「痛いこと?」 ぴく、と千さんの眉がまた寄る。 いい加減、自分がどれだけ迫力のある顔してるのか自覚してほしい。 顔が整ってるだけに怖いよ。 「今日で言えば、ち、乳首に、爪を立てられたり……?」 千さんの顔が怖くて震えながら言うと、すごく複雑そうな顔をされた。 物凄い怒ってるのはわかる。 でもそれを表情に出さないようにしてる顔。 「………………リチェールは、悪くない。 お前に怒ってるわけじゃないから、そんなに怯えるな。 すぐに言わなかったことには怒ってるけど」 「ご、ごめんなさ……わぁっ!な、なにしてるの!?」 シャツを捲られ、とっさに身を引いたけどがっちり手を捕まれてて動けない。 焦るオレに千さんはしれっと「確認?」なんて言う。 「あー。ほんとだ。右側だけ赤くなってるな」 「ん………っ!」 ぴちゃ、と千さんの赤い舌が胸に痛かったそこに這いびくっと体が反応する。 「や、やめて、千さん………っ」  執拗にそこばかりを舐められ、体がうずく。 やめて、とか口でいっといてオレも、本当は触ってほしかった。 千さんの温もりで、体に残るあいつの感触を消してほしかった。 「ふ、ぁ………っん」 ちゅっと音を立てて吸われ、びくっと体が反る。 千さんが腰を抱いてくれてなかったら、椅子から落ちてたと思う。 千さんが顔をあげると、まっすぐ目があった。 やめてとか言いながら、感じちゃってたことが恥ずかしくて、つい目をそらしてしまう。 でも千さんは気にした様子もなく片手でオレを抱き寄せてくれた。 「お前は俺のだって言ってんだろ。触らせんな」 「ごめんなさい……」 「大したことじゃないってのもやめろ。こう言うことはすぐ言え。いいな?」 「はい……」 さっきまであんなに千さんには言えないって片意地張ってたのに、言ってしまったら、まだ解決してないのに全部片付いたような安心感を覚える。 千さんに頼りっぱなしになってることが、たまにすごく恐ろしく思えてしまう。 なんだか、どんどんオレ自身が弱くなっていくようで。

ともだちにシェアしよう!