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電車

「叫ぶなら、月城に迷惑かかるぞいいのか?」 息を吸い込んだ瞬間、田所に口を捕まれ目線を合わされる。 臆するな。ここで怯んだら肯定するようなものだ。 「このビッチが。いじめてほしそうな顔しやがって。 無理矢理されるの好きなんだろ?」 「自分の生徒、ビッチとか言うんだ?」 「そうだろ。電車でも全然抵抗しなかったくせに」 「それは……っ」 怖かったからで。 そう続けそうになってとどめた。 敗けを認めるようで悔しい。 「どうせレイプされるのだってあの時が初めてじゃないんだろ」 それは残念ながら正解だった。 子供の頃からずっと父親に殴られながら犯されてたよ。 「淫乱」 言い返さなくなったオレをふんっと鼻で笑って耳元で言われた。 されたくて、こんな目にあってる訳じゃない。 お前に、何がわかるの。 殴られて、押さえ付けられて挿れられる屈辱を。 「月城もよく付き合ってるよ。こんなビッチと。 ストレス発散にはいいけど。付き合うなんてとんでもない。病気とか持ってるんじゃないか?」 悔しさか、悲しさか、手がぶるっと震える。 泣くな。泣くなオレ。 「……言いたいことはそれだけ?」 ぐっとこらえて、顔をあげてなに食わぬ顔で笑うと、田所せんせーが不快そうに眉を潜めた。 「………っ!?」 いきなり胸ぐらを捕まれ、ぐんっと引き寄せられる。 びくっと体が動かなくなった瞬間、がちっと歯がぶつかってキスをされたんだって理解した。 「………っやめ……………っ」 抵抗しようと体を押し返すと、ガリっと唇を噛まれて痛みが走った。 痛いし、気持ち悪いし、怖いし。 なんでオレばっかりこんな目に遭うの? 「月城はお前なんか遊んでる一人だよ。そんなこともわからないで可哀想だな」 唇を放した田所せんせーが皮肉な笑顔を向けてくる。 うるさい。お前に千さんの何がわかるの。 そう思うのに、言えない。 「現にあいつ、折山とも付き合ってるしな」 そんな話聞きたくない。 千さんは、仕事だって言ってたもん。 「月城せんせーがどうのこうのって話、どうでもいいよ。オレあの人となんの関係もないし」 胸がいたいよ、千さん。 震えそうになる体を必死にたえて、まっすぐ田所せんせーを見る。 とにかく、一刻も早くこの部屋から出たかった。 「小さい子猫が威嚇して、怖いと思うか?」 延びてきた手を振り払おうとすると、逆に捕まれてしまい、ギりっと痛いくらいに手首を握られる。 もう、蹴っていいかな。 佐倉せんせーとか事情話したらわかってくれるよね。 「放し…………っ」 「騒ぐなら、この写真を学校中にばらまく。 上手く言い逃れできても、生徒と噂になった月城にこの学校での居場所はないだろうな」 「…………っ」 千さん、オレ、どうしたらいい? ただ、好きなだけなのに、どうしてこの恋愛は千さんにばかり負担がかかってしまうんだろう。 それがどうしようもなく苦しかった。 抵抗しなくなったオレを見て、田所が満足そうに笑う。 「そうそう。 そうやっておとなしくしとけばよかったんだよ」 近付いて来た田所の顔に、ぎゅっと目を瞑ると頬をべろっと舐められ、鳥肌が立った。 体は固まって動かせないのに、ガタガタ小刻みには震えてしまい悔しい。 「このこと月城に言っても、写真をばらまくからな」 ねっとりした舌は首、それから鎖骨に降りて胸で止まった。 気持ち悪くて、カタカタ口まで震える。 「俺が今日つねったとこ、赤くなってるな。かわいい」 べろりと舐められ、息を飲んだ。 気持ち悪い。 もう、誰でもいいから助けて………! 『お呼び出しを致します。 田所先生、至急職員室にお越しください。繰り返します。田所先生、至急職員室にお越しください』 オレの願いが通じたかのようなタイミングで校内放送が流れ、田所がチッと舌打ちをした。 この声は、佐倉せんせーだ。 「アンジェリー」 名前を呼ばれてびくっと顔をあげると、田所が苛立ったような表情で睨んでくる。 「これで済んだと思うなよ。 お前はもう俺のものだ。よく覚えとけ」 最後に釘を指すようにそう言われ、田所が部屋を出ていった。 田所の姿が見えなくなった瞬間、張り詰めてた緊張が一気にとけて、体がさっきより震えて思わず自分の体を包んだ。 情けない。 結局オレは、いつもこうだ。 散らばった教材を纏めて、破れたシャツを胸元で掴むと、震えて力の入らない足でよろよろと指導室を後にした。 早く、千さんに会いたかったけど、このままの格好だと千さんが心配しすぎちゃうから、一度トイレで口の血を洗い流し、教室に戻ってジャージをシャツの上から羽織ってチャックをしめた。 残ってる生徒のほとんどは部活に行ってて、廊下も教室もがらんとしてる。 こんなところで叫んでも、だれか気付いて貰えてたんだろうか。 自分の浅はかさに笑いが出た。

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