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電車

もう肌寒くて、カーディガンを着てるのに、しっとり汗をかきながらゆっくり歩く。 塗られた薬の効果が早く切れたら良いのに。 前も後ろもやり場のない熱がじんじんとうずいて苦しい。 お腹を片手で押さえて歩いてると、一人の生徒に呼び止められた。 「かなりキツそうだけど大丈夫ですか?同じ学校ですよね?」 「え……?」   「……………っ」 顔をあげるとその人が驚いたように息を飲む。 そんなに顔色悪そうに見えるのかな。 「大丈夫だよー。ありがとー」 ネクタイの色が赤色だったからたぶん一年生。 辛うじて笑う。 「でも、先輩……やばい顔してますよ……。 体調悪いなら帰った方がいいと思います……」 向こうもオレのネクタイを見て2年だとわかったのか、すごく気をつかってくれる。 やばい顔って。そりゃこれだけ汗かいてるしね。 帰れるなら帰りたいよ。 「ありがとー。本当にだいじょ───っ」 大丈夫だと言おうとしたらいきなりローターが振動して、その場に蹲ってしまった。 「だ、大丈夫ですか!?」 「…………っだいじょ、ぶ…………っ」 イきたい。苦しい。 ビクビク体が震えて、昨日噛まれて痛む唇を自分で噛んで痛みで誤魔化そうとした。 校門は見えてるのに。 「お、俺、養護教諭呼んできますね!月城先生!」 「っやめて!」 心配して校門に向かって走ろうとした後輩の手をつかむ。 びっくりして振り返った彼に必死に懇願した。 「おね、がい………だれも、呼ばないで………っほんとに、だい、じょ、ぶだから……」 「……………!」 なぜか見る見る後輩くんが赤くなる。 立てもしない癖にだれも呼ぶなとかめんどくさいこと言って困らせてるんだろうと思うと、申し訳ない。 そのうち、通学中の他の生徒もチラチラ足を止めてオレを見る。 こんなの入れてるってバレたらと思うとゾッとするのにどうしようもできなくて悔しい。 「─────っはぁ」 ふと振動がとまって、ほっと息をつく。 まだじんじんして苦しく、立ち上がることは難しかった。 「ごめんね。肺が弱くて、たまに息苦しくてさ………。 これくらいいつもだから気にしないでね。気を使ってくれてありがとう」 それでもなんとか、呼吸が乱れるいいわけを適当に言って、後輩くんを安心させるように笑いかける。 「あ……いえ………。あの、しつこくてスミマセン。 やっぱ心配なんで学校まで支えます」 後輩くんがオレを立たせてくれようと手を伸ばした。 「触るな」 後輩くんの手がオレの肩に触れる一歩手前、低くて重たいこえが聞こえびくっと手が止まった。 その声に、驚いて顔をあげると無表情だけど、すごく怖い雰囲気を纏った千さんが立っていた。 「…………せ、」 名前を呼ぼうとした瞬間激しくローターが振動して、言葉に詰まる。 「この生徒かなり体調悪そうだし、感染性のある風邪かもしれないだろ。 病院に連れてくから、お前は先に学校に行け」 「あ、はい」 顔をあげれないでいると、その横で聞こえるやりとりに焦る。 まって後輩くん行かないで。 今、千さんと二人きりになるわけには。 「おい、リチェール」 「せん、さ………っ」 肩に手をおかれ、顔をあげると千さんが驚いたような顔をして、すぐに不機嫌そうにスッと眉を潜めた。 くそ。 田所、絶対何処かから見てる。 だから、このタイミングでこんなに喋れないくらい震度を強くしてるんだ。 「…………お前なんか盛られてる?」 「……………っ」 なんで、この人こんなに鋭いの。 でも、バレるわけにはいかない。 「……っも、られて、ない………っ  ちょ……っと、頭が、くらくらしてる、だけ……っ」 必死に言い訳をすると、千さんがスッと目を細めた。 「………とりあえず、今日は帰るぞ」   「や、やだ………っ」 オレを抱き上げようとした千さんの手を振り払う。 お願いだから、ほっといてほしかった。 千さんに本当のことを言えば、田所せんせーのこと、何とかしてくれるんだろうと思う。 本当に千さんは何でもできる人だから。 でも、キスされて、触られて。 しまいには、中心を縛られてローターなんて入れられてるオレをまた気持ち悪いって思うんでしょう? そして、そう思いながらも、優しいから慰めようとしてくれるんでしょう? そんな惨めなこと、もう嫌だ。 千さんが立てないで震えてるオレを少し不機嫌な雰囲気で見下ろす。 通りかかる生徒がチラチラ見てるのもわかって、千さんに申し訳ない。 「嫌がってもこんな状態で学校に行かせるわけないだろ」 「ひぁ………っん」 千さんに無理矢理担がれて、バイブがいいところに当たってしまい、びくんっと体を揺らして、空イキしてしまった。 縛られてるから、出すことできずにくらくらする。 さらに敏感になったそこに続く震動にこの体制はキツい。 「あっ、んん……っ千さ、おろ、して……っぁ」 涙がじわっと溢れて、ビクビク揺れてしまう。 千さんが呆れたように深くため息をつくのがわかった。 もうやだ。 田所のキモオヤジ。悪趣味なことしやがって。 これ以上千さんに嫌われたくないのに。 「月城先生、どうしました?」 田所の声が聞こえて、ぞくっと背中に冷たいものが走る。 なんで出てきたのこいつ。 「この生徒が踞って立てないでいたんです」 「へぇ?またアンジェリーですか」 田所が嫌みったらしく含み笑いをする。 こうした張本人のくせに。 「ええ。前も言ったようにアンジェリーは元々体が弱いんです」 オレを抱えたまま、器用にカーディガンを脱いでオレの顔を隠すように頭に被せる。 千さんの肩に顔を埋めて、声を押さえるのに必死で言葉がでない。 「しかし、その生徒は休みすぎです。体調悪いなら、指導室で僕が自習を見ますから、貸してください」 田所が近付いてくるのがわかって、思わずすがるように千さんの服を握る手に力が入ってしまった。 「立てないくらいフラフラしてる生徒に自習って何言ってるんですか! 田所先生、今のは校長に報告しますからね!」 聞こえてきた第三者の声にビクッとする。 この声は、たぶん佐倉せんせー? 「一年の生徒から僕のクラスの生徒が校門前で踞って立てないでいるって聞いて駆け付けたら僕の生徒に何やってるんですか田所先生! 一緒に校長室に来てください!」 「え、いや……」 「前々からあなたのルリ君への行為は行きすぎです! 僕やめてくださいって再三言いましたよね!? その事を含め話させてもらいます!」 「佐倉先生、おちついて……大袈裟でしょ……僕はアンジェリーに勉強を見て欲しいって頼まれて……」 「それは僕が生徒から直接聞きます!とにかく来てください!」 いつもの柔らかい雰囲気が嘘のような剣幕の佐倉せんせーにたじたじの田所。 まって、千さんにオレを任せたままどこかいかないで佐倉せんせー。 「月城先生、すみませんがルリくんのことお任せしても?」 「はい。佐倉先生、またあとで」 オレの想いもむなしく、佐倉せんせーと田所の声は遠くなっていってしまった。 黙って歩き出した千さんが、すごく怒ってることがわかって怖い。 「せ………っさん、おろ、して………っん」 田所が止めたらしくローターは動きは止まったけど、千さんが歩く度奥に当たって辛い。 イったのに、疼いたままのそこが苦しくて仕方なかった。 千さんはオレの言葉を無視して、歩いた。 「…………んっ………せんさ、トイレ……い、きたい……」 もうだめ。 とにかくつけられたものを取りたかった。 とっても、薬のせいで辛いままだろうけど、幾分かは楽になるだろう。 カーディガンを頭からかけられ、なにも見えないのも、千さんが黙ったままなのも怖くて仕方なかった。

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