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電車

ドアが開く音がして、カーディガンを取られる。 目を開ければ、保健室だった。 朝イチの保健室は誰もいなくて、薄暗い。 どうしよう。 こんな状態で千さんに詰め寄られたら、すぐにバレてしまう。 これ以上汚いところ見られたくないのに。 「せ、んさん、おねが、い………っはなして…っおね、が………っ」 一番奥のベットに下ろされ、カーテンを閉めて俺を冷めた目で千さんが見下ろす。 気付かれたくない不安と、イけない苦しさが、涙になってぽろぽろ溢れた。 「………っねが………うっ……おねがい…………っも、ほっといて………っ」 手で涙を隠しながら、逃げようとするけど、千さんに押さえられて敵わない。 「泣き止め。俺に話すことあるだろ」 いつもは泣くの我慢するなとか言う千さんが低い声で脅すように言う。 話すことって何。 昨日の電話のこと? 今はとにかく体がきつくて物事をうまく考えられなかった。 ローターは動いてないのに、塗られた薬のせいか、イってないせいか呼吸すらもままならないくらい。 「…………っも、やめて………っやさ、しく………しないで…………っ」 気持ちいいのか苦しいのかもうわからない。 体の辛さばかりでなくもう限界だった。 「リチェール」 千さんの低い声にびくっと反応してしまう。 怖い声出さないで、気持ち悪いって思わないで。 嫌いにならないで。 「………っふ………う……」 そんなこと、さんざん迷惑かけたオレに言う資格なんてない。 何も言えなくて、みっともなくボロボロなくオレに千さんが深くため息をつく。 ぐいっと腕を引かれれば、そんなちょっとした衝撃にすら弱くなった体が小さく悲鳴をあげる。 オレの体ひとつを片手ですっぽり包む大きな腕に抱き寄せられ、ひっと息を飲んだ。 「せ、せん、さ……っはなして………っ」 「だめ」 抜け出そうにも、ただでさえオレと千さんの力の差では敵わない。 今までは安心してたのに、どんどんどんどん不安が押し寄せてくる。 気持ち悪いって思ってるのに、オレが泣いたから優しくしてくれてるんだと思うと、千さんの前ですぐ泣いてに弱々しくすがる自分をすごく浅ましく思える。 「何盛られたか知らねぇけど、出さねぇとキツいだろ」 ぽすっと、ベットに押し倒され、さぁっと血の気が引く。 そのまさかで、千さんの手がオレのベルトに差し掛かって、必死に止めた。 「や、やめて…………!」 「リチェール?」 千さんが眉を潜めてオレを見下ろす。 こんな状況、絶対千さんに知られるわけにはいかなかない。 「塗られたのか飲まされたのか知らねぇけど、出さないと辛いだろ」 「………っ…なにも、されてな………っ」 「無理矢理押さえ付けて抜くなんて、他のやつらと同じようなこと俺にさせるなよ」 そんなこといいながら、簡単にオレの力なんて押さえ付けれるはずなのにあやすようにゆっくり頭を撫でられる。 この状況で、無理矢理されたって他の人と千さんが同じになるはずがない。 「………っなんで………」 気持ち悪いって累くんに言ってたのに、そんなに優しくできるの。 千さんはオレのことどんな気持ちで見てるの。 「リチェールが大切だからって何回言わせるんだよ」 まっすぐ言い切る千さんにますます混乱する。 もう何も考えられなくて、そんな嘘ばかり吐かせるなら嫌われてもいいやってすら思えてくる。 千さんに愛されてるって錯覚して後で裏切られたような気持ちになるくらいなら、いっそ千さんからオレをとことん避けてほしい。 こんなものをつけられて、遊ばれるオレを見て、どんどん嫌ってしまってくれたらいい。 「リチェール?」 抵抗を止めたオレを千さんが不審そうに見る。 「大丈夫。体楽にするだけだから」 優しく頭を撫でられ、ベルトを外された。 労るような優しい手つきに、涙がぽろぽろ溢れて止まらない。 千さんはオレがいやがるのわかってか、スラックスを下ろすことはせずに手を忍ばせた。 そしてすぐピタッと止まる。 縛られることに気付いたのか、オレの顔を少し不機嫌そうな顔で見て、ベットサイドのティッシュを数枚とると、ティッシュで柔らかく包まれ、縛られてたものをとられた。 「……っん」 塞き止められてたものがどくどくと流れて、びくびく体を震わせるオレを千さんが優しく抱きしめる。 怒ってるくせになんでそんなに優しくできるの。 「こんなのつけられてるってことは、後ろもか?」 「………っ」 低い声に息を飲むと、千さんが小さく舌打ちをしてオレの後孔に指を這わせてずるりと入れられていたものがようやく取られた。 「あぅ………っ」 思わず千さんの服をすがるように掴んでしまいハッとして放す。 苦しかった体がようやく解放され、ぐったりベットの横たわって乱れる息を整えた。 「………飲み物持ってくる。まってろ」 怒りを抑えるような深いため息をついて、千さんは立ち上がった。 カーテンを閉められ、千さんが見えなくなると途端に不安で押し潰されそうになる。 「…………っふ……………う、うう………っ」 昨日、田所にキスされて脅されたあと、すがるようにここにきたんだよ千さん。 もう千さんに頼りきってる今、千さんなしじゃこんなにも弱い。 言い訳したい。 脅されたこと、抵抗できなかったこと、すごくいやだったんだって。 でも、言い訳したところで、千さんの気持ちがオレのものになる訳じゃないんだ。

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