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すごく
蒼羽side
千のことになると少しのイタズラで一々表情をコロコロ変えるから、おかしくてちょっかいを出したくなる。
すぐ不安そうにしたり、嬉しそうにしたり。
「ごめん替えのTシャツ準備されてなかった?
とってくるから、千さんちゃんと髪乾かしてね。風邪引いちゃう」
「はいはい」
めんどくさそうにしながらも言われた通り洗面台にドライヤーをあてに行く背中は、昔と変わらない傷跡があって少し切なくなる。
初めてあったときも、再会したときも、学生時代も今も。
千はだれかに感情を動かされるってこと、あったかな?
いつも冷めた目で周りを見ていた気がする。
女の子は割りきれて後腐れのない子を選んでたし、しつこい子にはとことん冷たかった。
その千が、あんなに独占欲丸出しでさ。
ふと、笑いがこぼれる。
どうやら僕は傷付けてその人が本気かを見る傾向があるらしく、リチェールがさっき不安そうな顔をして、すごくほっとした。
リチェール。
君と千が付き合ったって聞いたときね、千がやっと人間になれたって気がして、僕すごくすごく…………。
「蒼羽さん。
蒼羽さん用にリキュール少し揃えてみたよー。
なにか飲みたいのあったら、オレ作るよー」
「おっ、さすが。一流のパシリ !
じゃあジンライムね!」
「はーい!」
さっきまで不安そうにしてたくせに、もう無邪気に笑ってる。
戻ってきた千がなんだこれ、とオムライスに刺さった旗を摘まんでふと笑っていた。
「かわいいでしょー?
千さんどんな反応するかなーって作ってみちゃった」
「暇人」
千が穏やかに笑って旗をまたオムライスに刺す。
ああ、うん。
やっぱり、二人が付き合ってすごくすごく嬉しいって思うよ。
絶対に言ってあげないけどね。
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