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佐倉先生と新しい友達
家の鍵を鞄から取り出そうと前を見ないで歩いてると、どんっと誰かにぶつかった。
「あ、すみません」
なんか、今日はよくぶつかるな。
顔をあげると、にっと笑った金髪の男に、あ、と声が出る。
「帰ってくんの遅ぇよ純也ぁ」
「翔(カケル)さん……!」
なんでこの人がここにいるんだろう。
用があるなら、電話したらいいのに。
「携帯ぶっ壊れてよぉ。
俺しかお前の連絡先しらねぇし?
仕方ねぇから迎えに来た。来るだろ?」
「はい……!」
吸っていたタバコをふーっと吐き出し、その場でぐしゃぐしゃ踏み消した。
あとで拾おう。
二人で階段を下りて、渡されたヘルメットを被る。
股がると、改造したマフラーから大きな音がなってバイクが走り出した。
翔さんは半年前、不良に絡まれたところを助けてもらった。
それから、居場所のない俺をこうやってよく連れ出してくれる。
バイクで連れて行かれたところは、少し寂れた大衆居酒屋。
安くて、量が多い。
「おー、来たか」
「ほら、お前らも早く飲め!」
見慣れた顔が6、7名。
そのうち、二人くらいは未成年。
お酒やタバコを進められるのは本当に困るし、正直話もバカっぽくてつまらない。
「ほら、純也!
お前のせいで遅くなったんだから詫びとして一気しろ!」
翔さんに渡されたグラスを内心ため息をついて、一気に飲み干して空にした。
喉が焼けるようにカッと熱くなって少し噎せる。
こんなところでも、居場所をくれるならどうだっていい。
あんな狭い部屋で、母さんがたまに酔って帰ってきては散らかしてすぐ出ていくだけの時間を一人で過ごすくらいなら。
居場所はここでいい。
みんなが無駄にでかい声でがやがや話す中、こっそり飲み物をお茶に変えて飲んでいた。
「あ?おい純也てめー、これお茶じゃね?殺すぞ。ほら飲め!」
焼酎の酒瓶ごと渡され、げ。と思う。
明日、朝から勉強だからお茶にしてたのに。
そう思って、はっと鼻で笑う。
なんだそれ。そんなの、サボればいい。
あんな二人どうでもいいだろ。
酒瓶を受け取って、3分の1くらい残っていた焼酎の原液を飲み干した。
周りがわっと盛り上がる。
頭がぐわんぐわん揺れて、ゆっくり沼に足元から落ちていく感覚が、嫌に心地よかった。
俺にはこっちが合ってる気がして。
__________
気がついたら、近くの公園で寝ていた。
ぼんやり覚えてるのは、閉店した店内で、動けなくなった俺をめんどくさいからって翔さんともう一人が連れ出してたこと。
めんどくさいからって、公園はないだろ。まだ冬では無いとは言え寒いし。
辺りは薄明かるくなっている。
ここがどこかはわからないけど、スマホでナビれば大丈夫だろ。
とにかく頭もいたいし、気持ち悪い。
「は、きそ……」
まだ酒が残ってるのか、目頭が熱くなる。
ああ、なんだか、どうしようもなく情けない。
飲めない酒をアホみたいに飲んで、あいつらにしがみついてこんな風に、捨てられてさ。
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