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テスト明けの休日

千side 「………んさん、………せんさん……」 体が優しく揺らされ、少しずつ意識が覚醒する。 でも眠い。 重たい瞼が中々開かず、揺らす手が煩わしくて掴んで引くと、簡単に体の上に倒れてきた。 「千さん、いい加減起きてー。朝ごはん冷めちゃう」 腕の中で動く何かから、ふわりと優しい匂いが届いて余計眠くなる。 何かというか、リチェールだろう。 脳は起きてるけど、体は寝てる。そんな感じ。 「千さん、今日デートするって約束したでしょー。起きてー」 ああ、なんか、そんな話した気がする。 ゆっくり重たい瞼を開けると、カーテンから漏れる白い光と、それに反射した金髪が眩しい。 「あ。千さん起きたー。おはよう」 目があったリチェールは、柔らかく微笑む。 寝起きがよくない俺を強く揺すったり大声を出したりしないで起こすのは大変だろうに、起きるとリチェールはいつも笑ってる。 手を引いたから、俺の上で動けないでいるリチェールの頭を撫でると、さらさらと指からこぼれ落ちていく。 頬を少し染めて嬉しそうに手に擦りよってくるこいつは、まるで猫みたいだと思う。 「寝起きの千さんぽけってしててかわいい。ちゅーしていい?」 そう言いながら、すでに頬に擦りよって小さな唇を落としてくる。 触れるだけのキスをして、リチェールはすぐベットから降りた。 「朝ごはん出来てるよ。コーヒー淹れとくから早く来てねー」 さっさと寝室から出ようとするリチェールの背中を見て、朝からテキパキ偉いと感心する。 「……リチェール」 「なぁに?」 名前を呼ぶと一々嬉しそうに笑って振り返るリチェールに少しずつ目が覚めていく。 「おいで」 ぽんぽんと、自分の胸を指で叩くと、顔を赤くしてリチェールが嬉しそうに飛びこんでくる。 「はいっ」 ぎゅーっと抱き締められ、細い背中に手を回した。 相変わらず軽いし、上に乗られてるのに全く苦しくない。 もう少し肉をつけろと何回言えばいいのか。 「千さん、大好き」 「知ってるよ。おはよ」 「おはよー、千さん。今日もいいお天気だね」 「映画だろ。覚えてるっての」 そう言うと嬉しそうに笑って、またきつく抱き付いてくるリチェールを可愛く思う。 本当にこいつは笑ってばかりだ。 いつものへらへらとした笑顔じゃなくて、照れを誤魔化すような笑顔。 歯を磨いて顔を洗うと、新しいタオルがすでに準備されていてそれを使う。 キッチンからはコーヒーとトーストの匂いがして、少しお腹が空いてきた。 「今日くらい朝昼晩全部外食でもよかっただろ」 「えー。オレが作ったご飯いやー?」 「たまには楽しろって言ってんだよ」 「オレがしたくてしてるのー。はい、新聞」 これ以上は言うことをやめ、渡された新聞を受け取って、テーブルにつく。 テレビはいつもニュース番組で、画面では時間は9時を映していた。 まぁまぁ寝たな。 朝は、サラダとオニオンスープ。それからチーズトーストとスクランブルエッグとウィンナーだった。 わざわざタコの形のウィンナーに、こういうチマチマした小細工好きだよなぁと、少し笑いが込み上げる。 「千さん、コーヒー熱いから気を付けてねー」 「ん、さんきゅ」 俺にコーヒーを出して、自分には牛乳をいれて向かいの椅子に座る。 読んでいた新聞を閉じて手を合わせた。 「いただきます」 眠たいし朝は苦手だけど、リチェールと過ごすようになってから、悪くないなと思う。 さっさと食べ終わって、一服してるとその間にリチェールがテキパキと食べ終わったものを片付けて、軽く流して食器洗浄機にかける。 テーブルをふいてる姿を見てると、ふいに目があって、にこっと微笑まれる。 「千さんのたばこ吸ってるのかっこいい。でも頑張って減煙してねー」 「はいはい。着替えてくる」 「はーい」 ベランダを見ると、すでに干された洗濯物がぱたぱたと揺れていてつくづく感心する。 うちは乾燥機能付きなんだから、使えばいいのに服が痛むとか言って、わざわざ手間をかける。 掃除機も、自動ロボットがあるのに隅が吸えてないと基本的には自分でするし。 もう少し楽しろと思うのに、本人はさせてくれないなら生活費を半分出すという。 出させるわけないよな。 ジーンズとTシャツ、カーディガンに着替えて、髪をワックスで簡単にかきあげて運転するから眼鏡をかけた。 リチェールも着替えを終わらせて、白のニット帽を深めに被っていた。 「帽子って珍しいな」 「うん。遠くの映画館だけど、一応プチ変装しとくー」 見られたとしても男同士なんだからいくらでも誤魔化せるのに、本当に心配性だよな。 「ついでにダテ眼鏡しとこー。おそろいだねぇ」 赤い眼鏡をかけてふにゃっとリチェールが笑う。 たしかにパッと見てリチェールだって分かりにくいかもしれないけど、それ変装か? 「男二人だと準備に時間がかからなくていいねぇ」 「じゃあ行くか」 玄関に向かうと、後ろからぱたぱたとリチェールがついてくる。 女と会うのはいつも夜で、休みの日に誰かとデートって初めてかもしれない。 車に乗るとリチェールが申し訳なそうに笑う。 「春休みには免許とるからね。いつも運転ごめんねー」 俺は別に運転は好きだし、負担だなんて思ってないけど。 そういえば、リチェールってまだ17なんだなって改めて思う。 普段がしっかりしすぎてるから忘れがちになってしまう。 「春休みって。そういえば、誕生日いつだよ」 「うん?んー、まぁ春休み中には免許とれるよ。 千さんのおかげで貯金もできたし、18になる半年前から教習所通えるんでしょ?」 だから誕生日いつだって聞いてるんだけど。 なんとなく、誕生日を言いたくない雰囲気はわかったけど、隠されたらなおさら聞き出したい。 「千さんは誕生日5月5日だよねー。こどもの日ってかわいいー」 「こわっ。なんでしってんだよ」 「へへー。なんでも知ってるよー」 わざとらしく気持ち悪い笑いかたをするリチェールにつられて笑ってしまう。 蒼羽にでも聞いたんだろう。こいつら仲良いし。 「まぁリチェールが免許とるなら、合わせて車の保険をリチェールが適用されるのに変えような」 「あ、そっか。そういうのってお金かかるよね?差額分出すよ」 「大してかわらねぇよ」 「うそだー」 どこか嬉しそうにはにかんで、俺の服の裾をつかむ。 リチェールがこの先ずっといることが前提な自分の思考回路にすごいよなって思う。 車をしばらく走らせてたら、コンビニが見えてきて、飲み物を買うために寄ることにした。 リチェールに財布を渡して買ってきてもらい、俺は一服して待つことにした。 しばらくすると、コーヒーとレモンティーを持ってリチェールが戻ってくる。 「そこのレジに並んでる女の子の団体がね、千さんのことかっこいー。声かけようかなーって話してたよー。 千さんは本当にモテるねぇ」 少し嫌みっぽくいうリチェールに「まぁな」と答えると、ムッとした表情になる。 お前だってモテるだろ。男に。 そう言うと余計怒るだろうから言わないけど。 「でもでも、千さんのこと一番好きなの絶対オレだよー?」 どこにムカついてるんだよ、お前は。 はいはいって適当に相槌を打って、頭を撫でるだけですぐ嬉しそうな顔をする。 チョロい。 今まで相手したどんなやつより断トツでチョロい。 そう思うのに、それすら悪い気がしない。

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