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テスト明けの休日

まぁね、佐倉せんせーは絶対純ちゃんを特別扱いしてたし? 純ちゃんの勉強見るって休日呼び出されるのは、なぜかいつもオレが保健室にいる時、千さんにも聞こえるように言っていたことがなんとなく気になってた。 佐倉せんせーの純ちゃんを見る目を見てると、そーゆー感情あるのかなーとは思ってたし、純ちゃんは純ちゃんで体育祭が終わってからも真面目に中間テストも受けて成績もちょっとあがってお利口さんになってたけど。 急展開すぎでしょ。 もう付き合ってるの? 「中間テスト、終わりましたしね……。タイミング重なるのもわかります」 「ですね。てかもうお互いですし、いいんじゃないです」 は?なにがだよ?と、状況を理解してない純ちゃんの様子を見ると、付き合ってはいないようだ。 「意味わかんねぇ。ルリ、お前映画なに見んの」 「うん?憎みっていう邦画のミステリーだよー」 「ああ。ネット評価高かったよな」 「そうそう」 ついにはもう千さん達を無視してオレと話始めてしまった。 「佐倉、俺らもそれ見るぞ。やっぱマイコーの冒険はやめだ」 あのアメリカのアニメ見ようとしてたの?かわいい。 純ちゃんの言葉に佐倉せんせーが穏やかに笑ってはいはいって言うことを聞く。 なんか、関係がわかったかも。 「すみません。うちの子、ルリくん大好きで」 「いえ」 「誰がうちの子だてめぇ!はったおすぞ!」 「純ちゃん。オレ言葉遣い気を付けてって何回も言ってるんだけど」 笑って声を低くすると、純ちゃんが可愛らしく、言葉を飲む。 てかさ、オレを大好きってところ否定し忘れてるのがもうすでに可愛いんだけど。 「とりあえず俺達大人組はチケット買ってくるから、子供達はそこでまっててね。 動いちゃダメだよ。あと、知らない人についてってもダメだからね」 「うるせぇ。ガキ扱いすんじゃねぇよ」 「純ちゃん?」 「ほら見ろ!てめぇのせいでルリが怒ったじゃねぇか」 「てめぇってやめなさいってば。口癖になっちゃってるよ!」 むにっと純ちゃんのほっぺたをつまむと、何故かオレじゃなく佐倉せんせーを睨む。 その顔もやめろっての。 「あはは!ルリくんいるとほんといーわ。じゃあルリくんよろしくね」 気にした様子もなくケラケラ笑う佐倉せんせーに、つられて千さんも笑う。 二人の背中が見えなくなって立ち上がった。 「じゃあ、いこうか純ちゃん」 「あ?どこに?」 「飲み物と、ポップコーン買いに。映画のチケット奢って貰ってるんだから、さすがにねー。オレバイトしてるし、好きなの奢るよ」 「俺も半分出すよ」 素直についてくる純ちゃんもお利口さんだと思うけど。 ここで動かないで待ってろって言われたけど、すぐそこだしいいよね。 第一、あの二人は飲み物くらい奢らせてっていっても絶対出させてくれないんだから。 「ルリ、キャラメルポップコーンも買お」 「オレもキャラメルが一番好きー。ハーフハーフにしようか」 混んでるレジにならんで、お喋りしながら待ってたらあっという間にオレ達の番になった。 オレのレモンティーと、千さんと佐倉せんせーのコーヒー。純ちゃんはオレンジジュースを注文して、二人で半分ずつ持って元の場所に戻った。 そこではすでに戻っていた二人が派手な格好の女性ふたりに絡まれていた。 千さんは校内で一番人気って言われてるけど、佐倉せんせーだってすごく人気だってゆーいちから聞いた覚えがある。 二人ともきれいな顔立ちだからな。 どうしよう。オレらが行っても相手も男ならって混ざってきちゃいそう。 「なに止まってんだよ。なんだあの女共」 足を止めたオレの後ろから純ちゃんがひょっこり覗きこむ。 それから呆れたようにオレを見た。 「月城と付き合ってるんだろ。お前割って入って止めろよ。なに遠慮してんだ」 「え……」 純ちゃん気付いてたの? ああ、さっきは自分と佐倉せんせーの関係が疑われてるってことが分からなかったのか。 「嫌なら嫌っていえよ。 お前は相手のこと考えすぎなんだよ。 俺がちょっと言葉遣い悪いだけでぷりぷり怒るくせに」 ぷりぷりって言い方かわいいんだけど。 珍しく純ちゃんが声のトーンを落ち着かせて、怒ってるというか呆れてるように見える。 「お前は勉強にしても普段にしても俺のために怒ったりするけどさ。 お前は自分ためにもっと怒ってもいいと思うよ」 そう言って純ちゃんはスタスタと千さん達に向かって歩き出した。 「おいこら、佐倉!映画始まるだろ。急げよ」 またそんな荒い言葉を使ってと言いたいけど、たぶん純ちゃんは俺のためにわざと嫌な役を買ってくれてる。 佐倉せんせーと千さんが振り替えって、つられて女の子達が振り返る。 女の子が押し黙るのがわかった。 そりゃそうだ。 純ちゃんってそこらのアイドルよりずっと可愛い顔してるんだから。 「純ちゃんとルリちゃんが勝手に離れるのが悪いんでしょー?」 女の子の勘違いに便乗して、佐倉せんせーがそれっぽい呼び方をする。 千さんと目があって、オレも駆け寄った。 癪だけど、今だけは女の子と勘違いされたいと思う。 「お前はまたこんなの買って。大人しく待ってろって言っただろ」 さりげなくオレからトレイを受け取って、腰をひかれる。 女の子扱いされてるみたい。 千さんはこうやって大切にしてくれる。 だからオレはこれ以上気を使わせないようにって思う。 オレも、千さんが大切だから。 いつのまにかそそくさといなくなってた女の子に、純ちゃんがふんっと鼻をならす。 「純也、女の子と間違われたの気付いてないでしょ」 「あん?バカじゃねぇの。 どっからどう見ても間違えようがねぇだろ。てか、佐倉ここ寒い」 ぶっきらぼうにいう純ちゃんに、はいはいって笑って首に巻いてたストールマフラーを純ちゃんにふわっと巻く。 純ちゃんも素直に巻かれて、ちらっとオレを見る。 こうやって甘えろって促してるみたいな視線。 オレ、イギリス育ちだよ。 千さんより寒さに強いっての。

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