188 / 594

テスト明けの休日

上映室に入ると四人で指定席にならんで座った。 オレと純ちゃんが隣同士で、それを千さんと佐倉せんせーで囲むように座る。 しばらく純ちゃんと話してたら映画の予告が始まって、静まり返る。 それぞれ容疑者が一々疑わしくて、ハラハラしながら見る。 むしろ、この中に犯人なんかいなければいいのにとさえ思えてくる。 映画の内容にのめり込んでると、途中でレイプのシーンが始まった。 それがもう本当に迫真の演技で、痛々しい。 ぞわぞわして、映画のワンシーンに怖いと思えてしまう。 押さえ付けられて入れられて、女の子の悲痛な悲鳴が頭に響く。 呼吸が浅くなるのを千さんに気付かれないように、このシーンだけお手洗いに立とうとした。 けれど、腰を浮かそうとする前に千さんに頭を捕まれ、肩にもたれさせられる。 千さんを見ても何事もなかったように画面に目を向けたまま、オレの頭を撫でてくれる。 ふわってブルガリブラックの匂いがして、気持ちが落ち着いていく。 そのまま、映画にはハラハラしながらも、最後まで落ち着いた気持ちで見ることができた。 エンディングが始まるとそっと千さんから離れた。 どうして千さんは隠してもすぐわかってしまうんだろう。 左隣の純ちゃんを見ると、すやすや寝ていてなんだか癒される。 「純也、起きて」 「んー………」 佐倉せんせーに揺らされて、純ちゃんが眉間にシワを寄せて目を開けた。 「おはよう。純也」 「寝てねぇよ、ハゲ」 寝起きからハゲとか。 ほんとこれ、他の先生にも使ってないよね? まじで留年する気なのこの子は。 「純ちゃん。ハゲって人に使っていい言葉かなー?」 びくっとして純ちゃんが振り向いたから、にこって笑った。 「言葉遣い直してねー」 「うるせーな。気を付けたらいいんだろ」 「うん、えらいえらい」 黒髪を撫でると、純ちゃんの眉間のシワがよりいっそう深まる。 それでも相変わらずオレの手を振り払うことはない。 映画が終わってざわざわしてきた館内からとりあえず出ることにした。 「佐倉、お腹すいた」 出てすぐ純ちゃんがお腹を押さえて佐倉せんせーの服をくいくい引っ張った。 そういえばもうお昼時でお腹も少しすいた気がする。 「うん。お腹すいたねぇ。 何食べたい?てか月城せ………千くん達一緒に食べない?」 佐倉せんせーが月城先生といいかけて、先生はまずいと思ったのか言い直した。 千くんってかわいい。 「そうだな。リチェール、どうする?」 千さんがオレを見下ろして、純ちゃんがすぐに「ルリは俺と一緒に食べたいに決まってるだろ」と断言した。 かわいい。連れて帰りたい。 抱きしめたいけど、そしたら怒るよねぇ。 「うん、オレ純ちゃんと一緒に食べたいなー。佐倉………さん?いいのー?オレ達邪魔じゃない?」 「雅人でいいよー。一緒に食べようね。何がいい?」 まさひとだって。 佐倉せんせーのこの気さくさ、いいな。 純ちゃんみたいに素直じゃない子によくあってる。 「じゃあ純ちゃん!これからは雅人さんって呼ぼうねー」 後ろからがばっと純ちゃんに抱き付いたら、あからさまにめんどくさそうな顔をされた。 「はいはい。雅人って呼べばいいんだろ。 それよりお腹すいたんだけど」 「そうだったね。純ちゃんはなに食べたいのー?」 純ちゃんが真剣な顔をしてうーんうーんと考え始めた。 「決めといてくれ。俺一服してくる」 千さんがタバコをもって、オレの背中をぽんっと叩く。 「わかったー」 千さんが喫煙所を探しに歩こうとして、純ちゃんが手を引いてとめた。 「ルリつれていけよ。 昼、この辺何があるか調べとくから。目放したらまたすぐ女に囲まれるぞ」 千さんが意外そうな顔で純ちゃんを見下ろす。 それから、オレに振り返った。 「リチェール、ついてくるか?」 「う、うん!」 あとで純ちゃんをいっぱいぎゅーしよ。 この子、いい子すぎ。

ともだちにシェアしよう!