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テスト明けの休日
教えられた3階の店に向かうと、いち早く気付いた純ちゃんが駆け寄ってきた。
「遅い」
「ごめんねー。少し迷っちゃった」
お昼時ってのもあってまあまあ混んでいる。
順番はあと二組ほどだった。
映画の前といい、さっきといい、今日は純ちゃんに何度も助けられるよな。
言葉遣いは悪いけど、優しさが人一倍あることがよく伝わる。
「千くんごめんね。
俺、ちょっと電話してくるから、子供たち見てて」
「ああ」
「おい雅人ガキ扱いすんな」
ベンチから立ち上がった雅人さんに、純ちゃんが柄悪く絡む。
すごいな。もう雅人って定着してる。
そういえば、勉強教えてても思ったけど、この子飲み込みは早いんだよね。
……忘れるのも早いけど。
ごめんごめんって適当に笑って雅人さんが席を離れた。
「そういえば、千って純ちゃんと今日はじめましてじゃない?」
ふと思い出して口にした。
今日はこの二人があまり話してる印象がない。
「同じクラスの原野だろ。
原野が一年の頃、一回木登りしてずっこけたって担がれてきたから初めてではねぇよ」
高校生にもなって木登りって。
笑いそうになりながら純ちゃんを見ると顔を真っ赤にして千さんに詰め寄っていた。
「なにしょーもないこと覚えてんだよ!忘れろよ!」
「腕にひび入ってるわ、頭にこぶ作ってるわ、鼻血出てるわで中々ひどかったよな」
「月城、やめろって!ルリにダサいって思われるだろ!」
純ちゃんに揺らせても、意地悪な笑顔を浮かべてペラペラ話を続ける。
だめだよ純ちゃん。
その人ドSだから。いやがってもやめない。
「同級生の窓から落とした物取りに木に登ったんだろ。
感心したからよく覚えてるよ」
「え?そうなのー?純ちゃんえらい」
「うるせぇ!」
顔を赤くしてぷいってそっぽを向いちゃった。
ほめてるのに。
「かっこいいよー。ダサいなんて思うわけないじゃん」
「そうだろうが!10メートルくらい登ったぜ!」
どやっと振り返る顔が可愛くて仕方ない。10メートルは嘘だろうけど。
「3メートルもないだろあの木。しかもそれから高所恐怖症になっちゃったんだよねぇ」
戻ってきた雅人さんがにやにやしながら純ちゃんを見下ろした。
「雅人てめぇ!ぶっ飛ばすぞ!!」
「きゃー。ルリくん!純也が怖い言葉使うよー」
「うるせぇ!ちくんじゃねぇ!」
チクるもなにも、この場で聞いてたっての。
「純ちゃん」
「ルリ、違う。気のせいだ。俺はなにも言ってない」
気のせいってなに。
でも少し焦る純ちゃんはなんだか可愛い。
「ふふ。純ちゃん、ちゃんと気を付けてねー」
「ルリにはてめぇとかぶっ飛ばすとか言わないだろ」
「雅人さんにも言っちゃだめよーだめだめ」
「そうよーだめだめー」
オレがお笑いの真似をすると、さらに雅人さんも真似して、思わず笑ってしまう。
純ちゃんもキモいとか言いながら吹いていた。
やっぱりこの子の笑顔あどけなくて可愛いな。
食事も楽しく会話が弾んだ。
千は相変わらず佐倉、原野って名前呼びだけど、よく笑ってると思う。
食べ終わって、大人組はまた一服しに喫煙所に向かうらしく、ついていこうと思ったけど、純ちゃんがトイレにいきたいと行ったから、オレはそっちに付いていくことにした。
だって、純ちゃん一人出歩かせるとか絶対危ないもんね。
「じゃあ二人ともおトイレ終わったらちゃんとここまで待ってるんだよ?
知らない人に声かけられてもついていかないでね」
雅人さんがふんわり笑ってお手洗い出てすぐのベンチを指で指す。
純ちゃんはなにか反抗しようと口を開きかけてハッとしたようにオレを見て素直にうなずいた。
「うんうん。えらいえらい」
「さわんな!」
それでも雅人さんが頭を撫でれば2秒で振り払われてしまう。
顔赤くして上目遣いでにらんでも怖くないのに、本人が強気なのが可愛らしい。
ケラケラ笑いながら二人は喫煙所に向かった。
「雅人さん優しいねぇ」
「はぁ?アイツ腹真っ黒だぞ。二重人格だし」
「そうなのー?あはは。想像つかないや」
「騙されんなよルリ」
お手洗いに向かって、また元の場所に歩いていると、くんっと後ろから手を引かれてぞわっと全身に鳥肌座たった。
「…………っや」
思わず思いっきり振り払って、握られた手を包んで相手を睨むように見てしまった。
「…………あ、久しぶり………」
気まずそうに挨拶してくる相手を見て、息を呑む。
なんで、こいつが、ここに………。
「この間いなくなった古典の田所?」
純ちゃんが不審そうに田所とオレを見比べる。
どうしたらいいのかわからず固まってしまった。
千たちと来たの知られるわけにはいかないし、だからと言って連れ出すのも嫌だ。
「あー、お前、佐倉のところの問題児。
いくら俺が今別の学校に異動したからってせめて先生はつけてよ」
ははっと気まずそうに笑う田所を思わず睨んでしまう。
問題児って言い方。
こいつはなんだか相変わらずいけすかない。
「アンジェリー、少し話がしたいんだけど、いい?」
いいわけないだろ。
そう言いそうになるのをぐっとこらえる。
こいつ自分がなにしたか忘れたの?
「すみません。今原野くんと来てるんで。失礼します」
冷たくそういって、純ちゃんの腕を引いて歩き出した。
純ちゃんもなにかを察したのか黙ってついてきてくれる。
とにかくこの場から離れて、着いてこられても千たちと鉢合わせにならないところにいこう。
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