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テスト明けの休日
「ま、まって!俺本当に謝りたいだけなんだ!」
また後ろから手を強く引き寄せられ、足がもつれる。
倒れそうになったのを支えたのは悔しくも田所だった。
「ひっ────や、やめろ!」
情けない声が出てしまい、強気に睨み付けた。
振り解こうにも、腕を痛いくらい捕まれてそれも難しい。
「謝りたいんだ!話を聞いてくれ!」
聞きたくない。
さわるな。
悔しさとか、怖さとか、色んな感情が渦巻く。
脅されて電車で好き勝手されて、変なものを付けられて歩かされて。
屈辱で仕方がない。
何より、千との関係を脅してきたことが一番怖さを覚えた。
今1人で来ていたら、間違いなく蹴り飛ばしてるのに、一緒に来ている人に迷惑がかかるからそんなこともできない
。
暴れても単純な力の差では振りほどけなくて、悔しさに目をつぶった。
「おい!ルリ嫌がってるだろ!さわんじゃねぇよ!」
純ちゃんがオレを掴む田所の腕を掴んで注目を集めるように大きな声を出した。
ざわざわを周りがこっちを見て来ることに、少し気にした様子の田所は煩わしそうに純ちゃんを睨む。
「相変わらずだな。原野」
「お前も相変わらず気持ち悪ぃな。死ね」
「お前……口の聞き方教えてやろうか?」
「うるせぇ、放せ。そして死ね」
あんまりにも口の悪い純ちゃんに田所がぴくっと眉を潜める。
田所は頭が悪いから、人前とかそーゆーの考えられないかも、と少し焦る。
「なめてんじゃねぇぞ!!!クソチビ!!!」
案の定オレを勢いよく離して、純ちゃんの胸ぐらを掴み上げた。
純ちゃんに手をあげることは許さない。
「純也に触んな!話聞くから離せよ!」
今にも殴りかかりそうな田所を後ろから羽尾締めするように抱き付く。
振り返った田所が満足そうに笑った。
「そうそう。それでいいんだよ」
「いやよくねぇよ」
聞こえてきた低い声にドキッとする。
振り替えると、黒い雰囲気の千と雅人さんが立っていた。
まずい。そんなイケメン二人が並んだら余計に騒がれちゃう。
「お前ら、なんでいるんだよ……!」
「うるさいな。とりあえず純也を掴む手離せよ」
普段の穏やかな雰囲気からは考えられない物言いに、田所はびくっと手を放して純也がよろけた所を雅人さんが腕の中におさめた。
「リチェール、なにしてんの」
千に低い声で言われ、いきなりの出来事に田所に後ろから抱き付いたような体制のままだったことを思い出して慌てて離れた。
「な、なんであんたらここにいんだよ。
はっ、やっぱ付き合ってたんだろ?」
千を見てあからさまに声が震え出した田所に千が冷たい目を向ける。
「リチェール、来い」
低い声で言われてすぐ千の元に小走りで向かった。
ふわっと香るタバコのにおいに気持ちが落ち着いていく。
「じゃ、行きましょうか。月城さん」
「だな」
そのまま、田所を無視して歩き出した二人に、オレも焦る。
田所も焦ったように大きな声を出してひき止めた。
「おい!!!お前らのこと学校で言いふらすぞ!!!
休みの日にこうしているんだからもう確定だろ!」
その言葉に、雅人さんがふっとバカにしたような笑みを浮かべた。
「だれがあなたのこと信じるんです?
僕らは二人で映画を見に来たところ、たまたまあなたに絡まれていたこの子達を見つけて、保護してるところですよ?」
純ちゃんの肩を抱きながら白々しく言う雅人さんに、田所が顔を真っ赤にして怒りを耐えるようにぷるぷるした。
まぁたしかに、田所の言うことと、二人がの言うこと、周りがどっちを信用するか目に見えている。
田所が追いかけてこないのを確認して、四人で少し敷居の高い人のほぼいないカフェに入った。
「そういえば、田所先生ってこの辺に飛ばされてたっけ?」
「いや、この県内ではあるけどもっと端の方だった」
飲み物の注文を終えて、開口一番に言う雅人さんに千が答える。
二人ともどことなく機嫌が悪い。
それから、なにも喋らないで俯く純ちゃんを雅人さんが嫌みなほどの笑顔を向けた。
「おいコラ純也。俺が目を放した隙になに変なのに絡まれてんだよ。言って聞けねぇなら縛り上げて監禁すんぞ」
その台詞に耳を疑う。
表情はちゃんと笑顔なのに、なんとも言えない迫力がある。
普段ならぎゃんぎゃん言いそうな純ちゃんも青い顔して俯くだけ。
「ま、雅人さん、ごめんなさい。
純ちゃんはオレを庇おうとしたんだよー?」
「うんうん。でも普通もう少し上手にかわせるよね?こいつ自分から煽るようなこといってたの聞こえてたしね。
おい、お前にいってんだよ。返事はねぇのかチビ」
後半は純ちゃんにむけてワントーン低い声で言った。
純ちゃんが今日言ってた二面性ってこの事だったんだ。
「う、うるさい……お前に言われる筋合いな…」
「あ?なに?」
「…………………」
あの純ちゃんがたった一言で黙らさせた。
オレのせいで二人が喧嘩して申し訳ない気持ちになる。
千、フォローしてくれないかなって正面を見ると、冷ややかな目で見られていて、びくっと息を飲んだ。
え、なんで千まで怒ってるの?
「せ、せん……?顔怖いよー?」
ひきつってしまった笑顔を向けると、深くため息つかれる。
「お前さ、ついていってどうするつもりだったんだよ」
さぁっとその低い声に血の気が引く。
そういえば、純ちゃんを殴られるくらいならって、その場を収めるために言う通りついていこうとした。
千はそういうの、一番怒るって今までのことでもう十分学習してるのに。
「ご、ごめんなさい……」
しょぼーんと項垂れる純ちゃんの隣でオレも並んでうつむく。
そうしたら、二人が同時に深くため息をついた。
「まぁ、無事だったからもういい。次はねぇけど」
「そうだねぇ。田所が悪いんだし、二人してお互いをかばい合った結果みたいだしね」
多分、こんなにあっさり許してくれるのは、千さんは純ちゃんに、雅人さんはオレに気を使ってくれたんだと思う。
「リチェール、お前は目を放したらほんとすぐ厄介なのに絡まれるよな」
「千くん、それ純也にも言ってやって。
てか、もうこれからは俺らのどっちかがやっぱり子守しなきゃだめだよ。
二人で席をはずすのはやめよう」
「………だな」
なぜか意気投合する過保護な二人。
てか、席について一言も喋らない純ちゃんに、この人どんだけ怖いんだよ、と雅人さんを見る。
ん?と笑顔を向けられ、思わずそらしてしまった。
「純也、反省したならもういいから頭あげな。
ほら、甘いのあるよ。パフェ食べる?」
雅人さんがいつもの柔らかい雰囲気で純ちゃんの髪を撫でると、振り払わずに怯えたように顔をあげる純ちゃんがなんだか珍しい。
「……チョコパフェ」
「はいはい。チョコパフェね。ほらもうそんな顔しないの」
「ケーキも食べたい」
「じゃあそれ俺が注文して半分こしようか?どうせそんなにたくさんは食べれないでしょ?」
素直に純ちゃんがこくんと頷くと、またよしよしと頭を撫でて、オレにも甘いのを進めてきた。
「ルリくんは?なに食べる?
さっきは田所に捕まって嫌だったね。甘いの食べて癒されて」
「え、いやオレは」
「食えよ。細いんだから」
「あ、うん。ありがとう」
千さんに言われ、チーズケーキを注文した。
最初は気まずかったものの、食べてるうちに和やかな雰囲気に戻って、最後は笑って店を出た。
こうやって切り替えが早いところ、二人は本当に大人だよなぁって思う。
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