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悪友

純也side 少し肌寒さを感じて、瞼をゆっくあけた。 「あ、純也起きた?おはよう」 顔をあげれば雅人が読んでいた本を閉じて柔らかく微笑む。 白のソファの上で雅人に膝枕をしてもらって寝ていたんだと、ぼーっとする頭で考える。 もう秋も深くなり、ベランダを開けたまま昼寝するには少し肌寒く、いつの間にか掛けられたブランケットと、雅人の温もりが気持ちよかった。 「まさひと、ココア……」 「はいはい。 いれてくるから、少し頭どかせるよ」 わがままを言うと、雅人はなんでも叶えてくれるからつい甘えてしまう。 ココアなんて、ないならないでいいし、腹が減ったらカップ麺でも食べる。 それでも雅人の手料理は美味しいし、ここにいていいと言ってくれるなら、駄目だと言われるまで甘える。 ただここは、居心地が良すぎて、たまに怖くなる。 一人は、いやだ。 でもずっとこうしていられるはずがない。 いつか、この場を離れなければならないとき、俺は再び翔さんたちの場所で満足できるのだろうか。 すぐそばにあったスマホを触ると、未読のメッセージが30件近くたまっていた。 全部翔さんから。 既読がついたらまずいから、携帯は壊れてるってことにして、開いていない。 「雅人。今日の夕飯なに」 「そうだね、純也の好きな食べ物でいいよ?一緒に買い物いく?」 「いく」 「じゃあココア飲んで体温めたら、車で行こうか」 頭を優しく撫でられ、触んなって振り払う。 でも最近は、別に嫌じゃない。 それは多分冬に近づいてるから。 だって、ほら、雅人って体温高くて暖かいから。 俺は寒がりだし、雅人で暖をとってるだけなんだと、自分に言い聞かせた。 __________ 買い物から帰って、雅人はさっそく夕飯の準備に取り掛かった。 今日は牛肉が安かったから、ビーフシチューになった。 「純也、ごはんできるまで勉強しときな?わからないところは教えるからさ」 雅人にそう言われ、返事はしないけど素直に教材を開く。 別に従ってる訳じゃない。 家事は全部雅人がしてしまうから暇だし、ルリがせっかく勉強教えてくれてるのに留年したら申し訳ないから。 下から数えた方が早かった俺の成績は、ルリに教えられたヤマが当たったこともあり中間テストで真ん中よりやや下辺りになっていた。 そりゃそうだよな。 学年首席のルリと、教師の雅人が付きっきりで教えてくれてるんだから。 前より参考書を開かずに解けるようになった課題は、ほんの一時間弱で片付いてしまった。 「雅人。終わった」 「もう終わったの?えらいえらい。 夕飯できるから、それまでゆっくりしときな」 雅人は、本当に甘やかしてくれる。 怒ったらお前チンピラかよってくらいガラが悪くなるけど。 初めて怒らせたのは、夜中目が覚めてしまい一人でアイスを買いにコンビニに行ったとき。 酔っぱらいのおっさんに絡まれて、女と勘違いされ服を脱がされそうになった。 たまたま俺がいないことに気付いた雅人が探しに来てくれたおかげで大事にはならなかったけど、家に帰ってそれはもう怒られた。 てめぇ、とか、お前、とか言われて、少しでも反抗しようものなら3倍の迫力なって夜叉のようだった。 次に怒らせたのは、干していたシーツをベランダから落としそうになり、身を乗り出してとろうとしたら、後ろからすごい力で首根っこを引っ張られ、再び夜叉が現れた。 三回目は、ルリが田所に絡まれてたのを突っかかったとき、この時にはもう反抗する気力すらなくなっていた。 でも、普段はあり得ないほど優しいから、こいつのそばを離れられないでいる。 そんなことを思い返していると、いつの間にか出来上がったビーフシチューをダイニングテーブルに運んで、二人でならんで手を合わせた。 「そういえば、ルリと田所ってなにがあったんだよ? お前知ってそうな雰囲気だったじゃん」 ふと思い出して聞いてみると、雅人が少し困ったように笑う。 「んー、ルリくんが体調悪いのに無理矢理補習させてたことや、あと他の生徒への体罰が問題になったから移動になったんだけど、多分、ルリくんそれ以外にもされてたんじゃないかなぁ」 「は?」     それ以外? 多分ってなんだそれ。 「いや、俺の想像なんだけどね。 ほら、ルリくんああいうの引き寄せる危ない雰囲気持ってるし、なんとなーくね」 たしかに。ルリは色気がある。 体育祭で汗をかいてしんどそうに息切れしていたとき、近くの生徒が顔を赤くしてルリを見ていたことを思い出した。 それに男子校だからか、あの学校はホモが多い。 俺も数回襲われかけて、なんとか逃げてきた口だ。 そのせいで言葉が多少荒くなったのは自覚がある。

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