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悪友

前に捨てられた公園で落ち合うことになり、ちょうどついた頃に雅人からの着信がなった。 少し悩んで電話を取ると、向こうから焦ったような声が届く。 「純也いまどこ!?」 珍しい。怒るでも笑うでもなく焦った様子の雅人にまるで本当に心配してるようだと思う。 そういうの、いらねーから。 「中学ん時の友達と集まることになって、少しボーリングしてくる。 お前風呂入ってたし、今メールしようとしてた」 「はぁ!?この時間に?」 「そう。で、俺ん家の近くだから、そのまま今日はそいつら俺ん家に泊めることにしたから」 「……ちょっとまって、色々突っ込みたいんだけど。 とりあえず、さっきはいきなり怒鳴って悪かったよ。 もう少し早い時間なら俺も止めないから、今日は帰ってきてくれない?」 「や、もう集合場所に来てるし、無理」 「それ、どこ?迎えにいく」 ほんと、こんなに焦ってる雅人珍しい。 なんでそんなに出歩かせたくないんだよ。 前みたいに酒のんで公園でつぶれてたら担任として困るって? ハッと皮肉な笑いが溢れる。 本当はわかってる。 困らせて、優しい雅人を試してるんだ、俺は。 そうしたら、雅人は担任だからほっとけないだろ? 雅人のそばは苦しいほど居心地がいい。 だからせめて卒業まで。 いや、今学期が終わるまででもいい。少しでも長くそばにいたい。 ……ただ、離れなければならないとき、俺はまた母さんに置き去りにされたような絶望を味わうことがないように、最低限の居場所は確保しておきたいんだ。 それが、雅人を困らせることになろうとも。 遠くから改造したマフラーの音が聴こえてきて、翔さんが到着したことがわかった。 「てか、そろそろ移動するからもう切る。また明日連絡するから」 「ちょっとまって純也! お前あの酒のませた奴らに会おうとしてるだろ!」 なんでわかってしまうのだろう。 そうだったら厄介だなって言う予測をたててるんだろうけど、それにしても鋭い。 「そんなんじゃねーし。じゃあまじでもう集まってるから切るよ」 まだ電話の向こうで何か言う雅人を無視して通話を切りそのまま電源も落とした。 なにも映さなくなった携帯の画面を見て、ひとつため息をつく。 もしかしたら、明日から家にいれてもらえないかもしれない。 それでもいい。 だって、これ以上一緒にいてこれ以上離れがたくなってしまったらそれこそ恐ろしい話だ。 いつかは、必ず離れるんだから。 「よぉ、純也」 後ろから声をかけられ、振り返る。 そこには、懐かしささえ感じる痛んだ金髪頭が立っていた。 「スマホ見れなくて、遅くなってすみません。お久しぶりです」 「おー。まぁ乗れや」 ヘルメットをぽいっと投げられ、とっさにキャッチする。 今日はどこにつれていってくれるんだろう。 どうせなら酒をのみたい。 なんだか、今日は飲まなきゃ寝れない気がする。 つれられて来た先は、俺の家の近くの街灯の消えた広くてボロい公園。 そこに柄の悪い男が三人くらい待っていた。 「おう、えーと、名前なんだっけ? 翔のお気に入りちゃん!」 俺を見て、一人の男が手をあげる。 なんとなく見たことがある気がする。 大体翔さんは10名くらいで常につるむから、その日その日でメンバーも違うし、いちいち覚えてない。 「翔くん、最近君が構ってくれないってふくれてたよ?」 ああ、この絡みウザい。 はぁ、と適当に返して、バイクから降りた。 「俺初めて見るんだけど、まじで超綺麗な顔してんじゃん!」 馴れ馴れしいやつにくいっと顎を持ちあげられ、翔さんの手前殴らないけど、不愉快で睨み付けた。 「あはは!こっわ! ねぇ、翔くん、いいの?俺らも参加しちゃって」 「いいんだよ。 そいつ最近反抗期だから。とことん躾直さないと」 いってる意味はよくわからないけど、不穏な雰囲気に、眉を潜める。 ニタニタ笑う男たちが気持ち悪い。 「か、けるさん?なにを………」 引きつってしまった顔をあげると翔さんの冷ややかな目と視線がぶつかった。 その瞬間、前髪を捕んでグッと引き寄せられ、うっと痛みで息を飲んだ。 「お前さ、俺から離れようとしてるだろ?」 間近で見た翔さんの表情は、焦点が合わなくて、正気じゃないことが見てわかって、ぞわっと背筋に鳥肌が走った。

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