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亀裂
「うわぁっ!!」
突然ノックもなしにドアが開いて、累くんがびっくりしたように千に抱きついた。
二人の近い距離にまたチリチリと胸が痛む。
「ちょ、ちょっと、純ちゃん……」
オレが腕を引いても振り払われ、無表情の千と、千にしがみついて怯える累くんを純ちゃんがきつく睨み付けた。
「ルリがそんなことするわけねぇだろ!てめぇなめてること言ってると、ぶっとばすぞ!」
純ちゃんに内容を話してないのに、まっすぐオレだけの味方をしてくれる純ちゃんに胸が熱くなる。
なんで、オレのことなのに純ちゃんがそんなに怒ってくれるの。
「純ちゃん、いいから……ここ病院だし……」
やめようよ、と手を引くと、純ちゃんがでも!と焦ったような怒ったような顔で振り替えって、言葉を止める。
「ありがとう」
オレの言葉に純ちゃんが苦虫を潰したような顔をして、俯く。
二人で黙り込むと、千がはーっと深くため息をついた。
「折山とアンジェリーは揉めてるのか?」
ぴくっとまた純ちゃんが眉を潜める。
そして、なにか言い返そうとしたのを手で制した。
千は人間関係のゴタゴタに巻き込まれることが嫌いだ。
ただでさえタイムラグで大変な時にそんな負担かけられない。
それに累くんの言ってることはなにも全く嘘って訳でもない。
どっちが悪いとかそんな子供っぽいことをして大怪我をしてる千を困らせたくなかった。
それにオレだって、あの時のことはもう忘れたかったし、話しもしたくもない。
決着だってつかないだろう。
顔色もよくないし、すごく疲れてる千にこんなことで板挟みにしたくない。
累くんも震えてしがみついてるけど、千はどこを打ってるのかわからないのに、そんなに簡単に触れてほしくなかった。
「累くん、怖がらせちゃってごめんねー。
もう、近付かないから」
笑って見せたけど、悔しくて手が震える。
純ちゃんが、驚いたような表情でオレを見た。
「月城せんせー、これ。ご迷惑をおかけしました。みんなで食べてください」
手に持っていた紙袋を千に渡して、「失礼します」笑って会釈をすると、千が眉を潜める。
なにも言われたくなくて、そのまま純ちゃんの手を引いて、さっさと病室をあとにした。
別に累くんのためじゃない。
大好きな千のためなら、悪役にだってなってやる。
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