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亀裂

純ちゃんが何度もオレの名前を呼んでたのはわかったけど、無視して手を引き病院の外まで連れ出した。 走りまではしなかったけど、早足できたし、胸もずきずき傷んで呼吸が上がっていた。 「ルリ!おい、止まれって!」 ぐんっと強く引っ張られようやく足を止めた。 「お前あんな言いがかりつけられて悔しくてねぇのかよ!!言い返せ!」 肩をつかまれ、純ちゃんが心底怒ったように言う。 言い返して、どうなるの。 あの場で弱いのは累くん。 なら千はきっと累くんの味方をせざる終えない。 だって、やっと引きこもりの子が家から出たんだよ? ここはオレが我慢するところ。 オレはそれをよくわかってるし、千が累くんの話を全部鵜呑みすることはないと信じてる。 だから、大丈夫なんだよ純ちゃん。 そう笑うつもりで口を開いた。 「………………辛い………っ」 それなのに、出た言葉は気持ちに反していて、ハッと口を閉じたけど遅かった。 「ルリ………」 純ちゃんが顔を強張らせて、急いで取り繕った。 「ごめ………っ。オレは、大丈夫だからっ」 「辛かったら言えって言っただろ!ばか!」 純ちゃんが乱暴にオレを引き寄せて頭をわしわし撫でてくれる。 泣きたかった気持ちが、少しずつ優しく解かされて行くようだった。 「純ちゃん、オレのこと信じてくれてありがとう」 「当たり前だろ!」 純ちゃんが、オレの代わりに怒ってくれたから、今オレは泣かずにすんだんだと思う。 「嫌な役させちゃってごめんね。純ちゃんがいてくれてよかった」 素直にそう言うと、純ちゃんが少しばつ悪そうに顔を下げる。 「いや、あれはだめだろ。 ムカついて感情のまま怒鳴りこんだけど、あんなことしたらあのチビデブの阿呆みたいな嘘に信憑性が増すよな」 チビデブって。 確かに累くんは少しふっくらしてるけど、女の子みたいでかわいいし、チビっていったって累くんともオレともそんなに変わらないのに。 純ちゃんはわざとそんな言葉を使ってるんだと思う。 オレの気持ちが少しでも晴れるように。 「純ちゃんが信じてくれたからそれでいいよー。 それよりチビデブってだめだよ」 「じゃあ、チビブタ」 「コラ。あの子はあの子で昔すごく傷付くことがあってね、たまたまオレもその場に居合わせたんだけど、本当累くんも辛い思いをして今の弱さだから、そんな風に言わないであげて。 オレは純ちゃんが味方してくれただけで救われたからさー」   ね?と笑うと、純ちゃんが「お前甘い」と、ムスっとする。 ちがうよ。本当にムカついてるし、もう累くんと友達になろうとも思わないけど。 あんなに最悪だった気持ちが落ち着いたのは本当に純ちゃんおかげだ。 千には嫌われたかもしれないし、もう一度好きになってもらえる可能性は薄いけど純ちゃんのおかげで頑張れる気がした。

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