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亀裂

あの事故から一週間がたった。 千は事故から二日後には退院して、更に次の日には学校に来てるらしいけど一回も会ってない。 たまに見かければ、いつも累くんがべったり腕に引っ付いてるから、見たくなくて避けてるのが正解なんだけど。 とにかくなにもない時間は余計なことを考えてしまうから、バイトの時間を増やしてもらって、授業にもちゃんと出て一人の時間を作ることをやめた。   「ルリ、お前本当にいいわけ?」 昼休み、ゆーいちにじとっと睨まれ、何が?と首をかしげる。 「なにが?じゃねーよ。わかってんだろ。月城先生!あの丸っこいのいつもつけてんじゃん!」 ばんっと机を叩かれ苦笑する。 丸っこいのって。 「しかも、月城怪我してるから媚び売るやつばっかだぞ。チビブタだけがライバルだって思うなよ」 便乗するように純ちゃんにも言われ、ちくっと胸は痛んだけど、気にせずへらりと笑った。 「いやー、彼からはいい思い出をもらったってことで」 オレの言葉を聞いて二人が揃って深くため息をついた。 だって、仕方ないじゃん。 今のオレをたぶん千は好きになるどころか嫌ってるだろうし。 もしくは完全に無関心か。 うん、後者だな。 またズキっと胸が傷んでポケットの中のお守りをぎゅっと握った。 千からもらったお守りはいつも持ち歩いていて、こうすると気持ちが楽になるようだった。 千がオレのそばを一週間たったけど、未だにこうしてオレを支えてくれている。 __________ 「ルリ?体調悪いの?」 純ちゃんと放課後、だれもいない廊下を歩きながら聞かれ、なんで?と聞き返した。 「ずっと手でスヌード口に当ててるから吐きそうなんじゃねぇの」 言われて、たしかにいつのまにか癖になってたなと気付いた。 「ただの癖だよー。 これ千から貰ったものだからなんか手でいじっちゃうんだよねー」 ふっと笑うと、純ちゃんが複雑そうな顔をする。 そんな顔させたくて言ったわけじゃないんだけどな。 「そんな顔しないでー。 とにかくオレはさ、このスヌードとか、あとスマホの写真とか、お守りとか色んなものから今も幸せもらってるから大丈夫なんだよー。 いつか千に記憶が戻って迎えに来てくれるって信じてる」 たとえ記憶が戻らなくても、迎えに来なくても、ずっとオレは千だけを好きなままだと自信をもって言える。 だって。苦しいも愛しいも悲しいもなかった空っぽのオレにたくさんの温かいものをくれたのは千だけだから。  「それにオレは千を諦めてないよー。 もう少し累くんが落ち着いたら隙を見てまたアタックするしねー」 累くんが落ち着いたら、というか。 本当はオレ自身が落ち着いたらなんだけどね。 情けない話、まだショックで千とまともに話せる気がしないから。 「ふーん。まぁ諦めるにしても頑張るにしても、ルリがどっちを選らんでもさ、俺は味方だから」 純ちゃんがオレの肩をぽんっと叩く。 本当に、つくづく純ちゃんがいてくれてよかったと、純ちゃんに抱き付いた。 「純ちゃんだいすきー!」 「うぜぇ!くっつくな!」 すぐに振り払われてしまい、すたすたと純ちゃんが前を歩く。 でも耳が赤いから照れてるんだってわかって胸がきゅんとした。 「うわっ」 「ひゃ……っ」 前もろくに確認しないで曲がった純ちゃんが誰かとぶつかって尻餅をついた。 そりゃ、前を見ないとそうなるよ。 「こらこら。もー、純ちゃんなにしてんのー。 すみません。大丈夫ですかー?」 オレもその場まで駆け寄って純ちゃんと同じように尻餅をついて俯く相手に手を伸ばした。 「……………さわんないで」 顔をあげた相手にオレも動きを止める。 オレのことを怯えるように累くんが見上げていた。 「………お前さぁ」 「純ちゃん、いいから」 苛立ったように口を開こうとした純ちゃんを手でやんわり制する。 オレも正直、今は関わりたくなくて手を引っ込めて愛想笑いをした。 「ぶつかっちゃってごめんねー?じゃあまたね、累くん」 早くこの場を去りたくて、何か言いたげな純ちゃんの手を引いて歩き出した。 大分離れて、累くんが見えなくなると、純ちゃんが不機嫌そうにチッと舌をならす。 「ごめんねー。純ちゃんはいつもオレの代わりに怒ってくれてるねぇ」 「お前のかわりとかじゃねぇよ。なんだあいつ。普通にムカつく」 怒りのあまり手を繋いだままのことを忘れてる純ちゃんがこんなときに不謹慎だけどかわいい。 まぁまぁと、純ちゃんを宥めながら歩くと純ちゃんが重くため息をついた。 「てか、あいつ多分さっきの話きいてたぞ」 「え?」 「曲がってぶつかるまで、あいつあの角の壁にもたれて突っ立って歩いてなかったもん」 え?なんで? オレのことが怖いから声が聞こえて曲がれないでいたとか? いやそれなら引き返せばいい。 どこまで聞かれたのか不安はあるけど、付き合ってたことがバレたって、今さらだ。 今はなかったことになってるんだから、千に被害はないだろう。 「まぁ、大丈夫でしょー。 てか純ちゃん。なんか甘いの食べに行こうよー」 純ちゃんの機嫌はどうやったら治るかな。と、手始めにそう提案すると、甘党の純ちゃんが嬉しそうに顔をあげる。 オレには支えてくれる人がたくさんいるのだから、いつまでも落ち込んでなんかいられないよね。

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