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亀裂
リチェールside
累くんがなんでスヌードに拘るのかがわからなかった。
今一番千の側にいるのは間違いなく彼なのに。
千からもらったって聞いたからって、こんなの取って何になるっていうの?
それをとられるのだけは嫌でオレも今累くんが過呼吸を起こしてることがわかっていてもなんとか返して欲しいと食い下がった。
「せんせー、お願い。それはどうしても一瞬も預けたくない。大切な人から貰ったものなの」
千のことを板ばさみにして困らせたくなかったけど、こればっかりは譲れない。
千と最後にいったデートでもらった大切なものだから。
スヌードと引っ張ると、累くんがイヤイヤと苦しそうな呼吸で首を降る。
いよいよ本格的に呼吸も乱れてきて、少し千が焦っていることもわかった。
オレが引くべきだよね。
わかってる。
それでも、その一言がどうしても言えない。
「俺が預かるから、それでいいだろアンジェリー。
折山が落ち着いたらちゃんと話聞くから」
俺が預かる?
そこで累くん優先の話を聞くんでしょ?
そんなの、とりあえず累くんに渡すのとかわらない。
絶対に嫌だ。
「よくないよ!返して!」
「お前も落ち着けって!」
累くんに掴みかかる勢いで近付くと、千がかばうように手で制してくる。
落ち着いてられるかよ。
てかそれオレのだし、ほんと、そろそろ我慢できないっての。
あの日病室で我慢したものさえも溢れだしそうでさっさと返してもらってこの場を離れたかった。
大体、息苦しそうなわりにはスヌード掴む手強いよな!
「も、いい加減にしてよ累くん!」
千をどかして累くんに掴みかかろうと手を伸ばす。
「アンジェリー、少し落ち着───」
ぱんっ
乾いた音が響いて、左頬に衝撃が走った。
千のオレを止めようとした手がたまたまオレの頬に当たった音。
わざとじゃないのは、よくわかったけど信じられない思いで千を見る。
「っ、悪い。顔に当たった」
千も平手打ちする形になったことに動揺した表情でオレの顔を覗き込んできた。
その瞬間、ガン!と千の足を思いっきり踏んでやった。
「そんなもの、もういらねーよ!!」
今まで溜めてたものが爆発して、ぶつけるようにそう叫ぶと、二人に背を向けて廊下を走った。
後ろで呼ぶ声がしたけど、もう見たくもなくて、とにかく早く離れたかった。
そもそも千がわざとじゃないのはわかったし、千の振り払った手にオレが突っ込んでいったような形だ。
わかってるけど、どうしようもなくショックだった。。
頬は全然痛くないけど、胸が切り刻まれるように痛んで息も苦しかった。
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