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さようなら

純也side 科学は得意だからサボって教室で寝る。 でも、俺は成績が悪いからちゃんと受けろ。 そういって一人教室に戻ったルリが、授業が終わると共にやって来て、そのまま屋上まで雄一と共に連れ去られた。 「………なぁ、なにがあったかいい加減話せよ」 ルリはずっとだんまりだ。 4限が始まった鐘の音が響いた。 自分はサボるくせに、俺もサボろうとしたら成績が上がるまではだめだと言ってたくせに、よっぽどのことがあったんだろう。 となると、思い当たるのは月城とチビデブのことだろうと思うけど。 「さみーんだけど。話ないなら教室戻ろうぜ」 「やだ。オレの上着貸したげるから純ちゃん隣にいて」 なんだこのめんどくさい女みたいな態度と、言葉にはしないけどそう思う。 「なんだそのめんどくさい女みたいな態度」 あ、雄一がいった。 「もー!ゆーいち!」 拗ねたようにゆさゆさ揺らされて、ははっと笑う。 ルリも少しは落ち着いたらしく、ふーっと白いため息をついた。 それから悲しそうに笑う。 「オレ千のこと蹴っちゃったぁ」 「はぁ?なんで?」 内容が意外すぎて、思わず半笑いで聞き返す。 ルリは、んーっと少し考えたように黙る。 こいつのことだから相手を傷付けない言い回しを考えてるんだろう。 「累くんとまた揉めちゃってさぁ。 オレも譲りたくなくて累くんが過呼吸になってるのに掴みかかっちゃったんだよねー。 それで、たまたま居合わせた千がオレを累くんから放そうとして払った手がたまたまオレのほっぺにヒットしてムカついたら、考えるより先に足が出ちゃった」 やっぱりまたあのチビデブ。 ムカムカと頭に血が上る。 てか、ルリって何気に喧嘩っ早いよな。 それからルリはなんでそうなったか、ぽつぽつ話始めた。 チビデブがルリのスヌードを持って逃走したこと、月城がチビデブを庇ったこと。 聞けば聞くほど、こいつことごとく運がない気がする。 「ルリ悪い。残りは純也と話してて。俺ちょっとトイレ」 雄一は寒さに耐えきれなかったのか、あっけらかんと笑ってた屋上を後にした。 あいつルリの幼馴染だろ。薄情だな。 「てか、別に蹴るぐらいいいだろ。 何ならぶん殴ってやったらその衝撃で色々思い出すんじゃねぇの」 「いやー、ダメでしょ。 千もわざとじゃないし、たまたま当たっただけだし。 なんなら、あの状況で累くんの肩を持つわけでもなく平等に話を聞くって言ってくれてたのにさぁ」 うーっと唸りながら頭を抱えるルリを横目に、ため息をつく。 まぁたしかに、ちゃんと話を聞くから、とりあえず今は待てって俺が月城の立場でもそうなる。 そして人によっては、弱ってるように見えるチビデブの肩を一方的にもつやつも多いだろう。 そこまでわかってて、ムカついたから蹴ったって、こいつ中々やるなぁ。 まぁ、基本的になんでも笑って許すようなやつだけど、やられたらやり返すところあるよな。 この間俺が殴ってしまったときもそうだ。 てか、やられたら、倍返しだよな。 あのときの拳骨は、たんこぶになってしばらく痛かった。 でも俺がルリを殴ってしまったことを気にしてたからやり返してフェアにしてくれたのもわかる。 「お前はつくづく損な性格だよなぁ」 隣で頭を抱えるルリにため息混じりに言うと、そう?と首をかしげる。 これだけ優しいと生き辛くもあるだろう。 「とにかく、教師を蹴っちゃったわけだし、累くんと揉めたし。 あとやっぱりスヌード返してほしいから放課後謝りに行く。 でもすごく落ち込んじゃうから純ちゃんは癒し隊員としてオレが戻ってくるの待っててー?」 甘えるように不安そうに首を自分の方にこてんと乗せて言うルリに、なにが癒し隊員だよって突っ込む。 なんなら、付いていってやってもいいのに、ルリは本当にたくましいと思う。 「色々考えすぎんなよ。 お前が少しでも辛いなら投げ出してすぐ戻ってこいよ」 「うん、ありがとー。 純ちゃんに話聞いてもらってスッキリしたー」 「話聞くだけでスッキリするなら、さっさと話せよな。 お前話し出すまでが長いんだよ!」 寒さで手で体をさすると、ルリがごめんねーと申し訳なさそうに笑う。 口ではこう言うけど、ルリが弱ったときこうして連れ出されるのは別に嫌いじゃない。 本人には言ってやらないけどさ。

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