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代用品
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翌日、イギリス行きのチケットを手に飛行機に乗り込んだ。
後少しで冬休みだった。
そうしたら、千と行こうと約束していたイギリスに、皮肉にも向かってる。
父さんが、危ないかもしれない。
その状況になんとも言えない心情だった。
悲しいのか、どうなのか自分でもよくわからない。
殴られて、犯されて、代用品だと言われて、とてもじゃないけど好きにはなれなかった。
それでも、死ねばいいなんて一度も思ったことはなかった。
不安、戸惑い、色んなことが渦巻いて、とても他のことを考えられない。
このタイミングで日本を離れることがやっぱり神様がいて、正しい居場所を教えてきているんじゃないかとか馬鹿なことまで思えてくる。
なにより、初めて焦った母さんの声を聞いて、胸が締め付けられた。
母さんが悲しむなら、オレはちゃんとそばにいてあげたかった。
だって、やっぱり、家族だから。
空港につくと、そのまま急いで自分の家に向かった。
イギリスの気温は日本に比べてぐっと低く、スヌードを鼻まであげて自分の家の前の扉を開けた。
荷物だけ置いてすぐに病院に向かうつもりで、母さんに電話を掛けながら家のドアを開けた。
『お掛けになった電話番号は現在使われておりません』
________え。
携帯から聞こえた無機質な声に、頭がフリーズする。
どういうことかわからず立ち尽くしていると、中からバタバタバタと足音が響いて奥から血走った目をした父さんが出てきた。
「…………なんで」
父さんがいるの?
そう続けようとした瞬間、ガンっと頭に衝撃が走って体が壁に打ち付けられた。
『僕は離婚なんてしないからな!!!エリシア!!!
他の男と出ていくことなんて許さない!!』
なんの話かわからないまま、胸ぐらを掴み上げられ、焦点のあわない目がオレをとらえる。
『お前は僕のものだろう!!!
相手の男を殺すぞ!!だまって僕の嫁でいろ!!』
________ああ、そういうこと。
はっと口から渇いた笑いがこぼれる。
オレが父さんの相手を辞めたことできっとこの家ではバランスが破錠したんだろう。
ややこしくなる前に父さんと離婚して相手の男と逃れようと謀ったんだ。
父さんはもうオレに興味がないから、いままでオレに向けてきた狂気を母さんに向けて、母さんは男と逃げ出したんだ。
オレを、ここに向かわせて。
あの焦った母さんの声は、自分が逃げるために必死だった声。
自分の母親ながらに策士だなと思う。
『………父さん、オレ、リチェールだよ。母さんじゃない……』
『お前は僕だけのエリシアだ!そばにいろ!!』
もう一度、ガンっと殴られ壁に頭をぶつける。
痛む頭を押さえると、ドロッと濡れて血が出ていることに気が付いた。
代用品にされてたのは、父さんからだけじゃなかったんだ。
______ねぇ、母さん。
オレさ今回かなり心配したんだよ。
あんたら、オレをなんだと思ってるの。
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