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リチェール

リチェールside 身体中の軋むような痛みでゆっくり意識が覚醒した。 辺りは真っ暗でここがどこかもわからない。 たしか、舌を噛んで首を絞められたのが最後の記憶だから、死後の世界だったりして。 なんて、バカ話あるわけないよな。 はっと内心馬鹿げた笑いを浮かべながら、ゆっくり体を起こした。 ここは本当にどこだ? 目が慣れてきたおかげで、少しずつ見えるようになってきた。 病院にも見えるけど、父さんがオレを病院につれていくとは思えない。 カーテンは閉められていたけど、真っ暗なことから今が夜ということはわかる。 あの後、どうなったんだろう。 あの血走った目を思い出して、ぶるっと体が震える体を押さえた。 押さつけられた圧迫感や、挿れられた痛みがまるで今起きてるこのように体が覚えている。 もう逃れられないのだと悟った。 母さんの浮気相手を殺すといっていた。 その迫真の表情を思い出すだけで、背筋に冷たいものが走る。 今は、何日だ? オレはどれくらい寝てた? もう全部、終わりにしたかった。 どうして助かってしまったんだろう。 大好きな千に自分から別れをつげて父さんのそばにいることもできない臆病なオレは一番卑怯な逃げかたをした。 もう、オレの手で全部終わりにしたかったのに。 千の顔を思い浮かべてぼたぼたと涙が溢れる。 生き残ってしまったことに自分ですらよくわからない涙が溢れた。 しばらく息を殺して、震える体を埋めているとコツコツと足音が近付いてきて、ガラッとドアが開いた。 真っ暗な部屋のなかでその人が持っていた懐中電灯に照らせれ、目を細める。 『あら?アンジェリーさん起きたの?』 パチっと音がして部屋が明るくなった。 立っていた女性はナース服を着ていて、やっぱり病院なのだと確信に変わる。 『よかった。 あなた、1日で目が覚めると先生は言ったのに3日も寝たきりだったのよ。体の調子はどう?』 3日? 父さんはどうなったんだろう。 母さんは?逃げれたの? 『─────。』 "オレはどうしてここに運ばれたんですか" そう看護師さんに尋ねようと開いた口は、なにも音を出さなかった。 『──────?』 もう一度声を出そうとしても、やはり出ない。 なんで? 舌は、あるよな。 動かすと多少ビリビリ痛むけど、間違いなくある。 そもそも、舌がなくても喋れないにしても声くらいでるはずなのに。 『─────っ!』 叫ぼうとしても、なにも音は出ない。 顔をあげると、看護師さんが強張った表情でオレを見下ろしていた。 『まさかあなた……声が…?』 オレもどうしていいかわからず、戸惑いながらうなずく。 『す、すぐ先生呼んでくるわ!』 焦ったようにぱたぱたといなくなる看護師さんの背中を不安な気持ちで見送った。

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