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リチェール

『───声帯はどこも傷付いてないし声はでるはずだよ。 精神的なものからきてるんだろうね』 オレの喉をペンライトで照らしながら難しそうな顔で先生はため息をついた。 後ろで看護婦さんがショックを受けたような顔でオレを見ているけど、オレ自身はイマイチぴんとこなかった。 看護師さんとなにかを話していた先生の白衣を引っ張り、ジェスチャーで紙とペンがほしいと伝えた。 渡されたメモ帳をとボールペンを受けとりペンを走らせると先生が覗きこんでくる。 "ご迷惑をお掛けしてすみません。 よろしければ、わかる範囲でいいのでなぜオレがここにいるのか、どうやって運ばれたのか状況が知りたいです" 全部書き終わって顔をあげると、先生がすごく驚いたような顔で固まっていた。 『……声がでなくなって怖くないの?』 不便だな、とは思うけど、別に。 死のうとしたのに、今更声なんてあろうがなかろうがどうでもいい。 安心させるように、にこ、と笑うと、また先生が目を見開いて、それから悲しそうにオレを見下ろした。 何でそんな顔するのだろう。 オレなら大丈夫なのに。 『………どこまで話していいのかわからないけど、君が一番気になってるのはご両親のことかな? 心配要らないよ。お父さんは殺人未遂で拘置所だし、お母さんの方はまだ警察の取り調べを受けてどれくらいの罪を問われるのかわからないけど、弁護士の資格の剥奪と、君へもう関われないのは確実だろう』 オレが病院にいることから、父さんが捕まったかもしれないという可能性は全く想像してなかったわけじゃないけど。 やっぱりオレは、あんなに苦しんでいた父さんと堕ちてあげることすらできず悪者にしてしまったんだね。 どうして母さんまで捕まってるんだろう。 オレが話したわけじゃないから、身代わりにして男と逃げようとしたことなんてバレようがないのに。 何も守れないまま、ひとりのうのうと生き残ってしまった。 色んな可能性を頭で巡らせていると先生がオレの顔色を伺いながら言葉を続けた。 『今日は疲れたでしょう。明日また警察とかくると思うけど、それまでゆっくり休んで』 優しい言葉に頷いて、出て行く先生を見送った。 これから、オレどうなるんだろう。 きっと、日本には戻れないだろうな。 もう、なんでもいいや。

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