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イギリス
コンコンというノックの後に看護師さんが入ってきて、「お夕飯持ってきました」と声をかけてくれる。
『あ、ありがとうございます』
千にくっついていたことが恥ずかしくて咄嗟に体を放しながら返事をすると、トレイを持ったまま、看護師さんが目を丸くする。
『……あなた、声』
あ、そっか。すぐナースコール押すべきだったよね。
報告が遅れた事が申し訳なくて、躊躇いがちに笑って誤魔化してしまう。
『すぐお知らせできなくてすみません。おかげさまでさっき声が戻りました』
オレの言葉に、看護師さんが表情を明るくしてオレの両手を包んだ。
『どうして謝るの!素晴らしい事じゃない!すぐドクターを呼んでくるわね!』
まるで自分のことのように喜んで看護師さんはバタバタと出ていった。
『声が戻ったって!?』
すぐに来てくれた興奮気味の先生にぎこちなく笑う。
『はい。本当にお騒がせしました』
一言、オレが言葉を発すると、先生は目を見開いて驚いた。
『こんなにかわいい声してたんだね!いやー、戻ってよかった!』
『先生や病院の皆様の暖かい対応のお陰です』
『いやいや!月城さんのおかげでしょ!』
先生の言葉がグッと心に刺さる。
うん。
千にはどれだけ感謝してもしきれない。
『お昼も食べれたみたいだし。このまま少し検診して傷の治りが順調なら、退院でもいいかもね』
思ってもなかった先生の言葉に顔をパッとあげる。
ほんとに?
今日、千と帰れるの?
『念のため、少し怪我の治り具合見せてね』
そう言って顔に近づく手にびくっと体が硬直してしまい、とっさに目を瞑る。
『っごめんなさい』
ああ、先生もせっかく診てくれてるのに毎回こうじゃ気分悪いよな。
「リチェール。眼帯と包帯はそろそろ取れるだろ。ちゃんと見てもらえ」
千がぽんと頭に手を置いてきて、頷きながらも思わず千の服を握った。
診察の度に少し触れられただけでビクビクしてたのに、千がそばにいるだけで全然違う。
次第に気持ちが落ち着いていくのがわかる。
『……すごいな。本当に月城さんがいると変わるね』
そう呟きながら、眼帯や包帯が取り替えられていく。
『うん。傷もよく癒えてるね。
月城さんといるとアンジェリーさんもご飯も食べて睡眠もとってるみたいだし、いっかな』
『じゃあ……』
『いいよ。今日連れて帰って』
その言葉にガバッと千を見上げる。
「退院おめでとう」
穏やかな笑顔で言われたその一言に、ぱあっと嬉しくなり、先生もいるのに思わず千に抱きついた。
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