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イギリス
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目を覚ますと辺りは薄暗く、千の暖かい腕のなかだった。
くっつきそうな程近い距離にあるきれいな顔に未だに心臓が鼓動を増す。
こうやってくっついてくれるなら、寒くないから裸でもいいのに、だぼだぼのニットの服が着せられていてワンピースみたいになっていた。
いつも腕まくらしてくれるけど痺れないのかな。
千の行動が全部暖かくて、胸が熱くなる。
お風呂に入りたくて、そーっと抜け出そうと、オレを包む千の腕をゆっくりどかした。
「こら」
「ぅわっ」
もう少しで抜け出せるというところでぐいっと手を引かれ、また腕のなかに収まってしまった。
「びっくりしたー起きてたのー?」
「今起きた。どこに行こうとしてんだよ」
眠たそうにしながらも、腕には力が入っていて苦しいよ、と笑う。
「お風呂入りたいな」
「あー………まて。お前体力落ちてるしまだ飯も満足に食えねぇんだから。
俺も一緒に入る。あと5分寝かせて」
「えー?オレ一人で入れるよー?」
「ダメに決まってんだろ」
たしかに昨日は一人であるくのヨタヨタしちゃったけどさ。
眠たいなら、無理しなくていいのに。
すー、すーっとまた静かに寝息をたてる千の頬にちゅっと唇を落とした。
好きだなぁ。
千の体にぎゅーっと抱き付いて、千の手を自分の頬に当てた。
千は、朝弱いから一度寝たら全然起きない。
「だいすき」
こそっと言葉を伝えて、また静かにチューをしようと唇が触れた瞬間後頭部を押さえられ、舌が入り込んできた。
「んぅ………!?」
うそ、あの千が起きたの?
抗議もできず、うー!うー!とうめいて千の肩をバンバン叩く。
やっと唇を離され、顔をあげると千が意地悪く笑っていた。
「なに朝から誘ってきてんだよ変態」
「お、起きるって思わなくて……ごめんねー」
「むしろこういうことは起きてるときにやれよ」
寝てるの邪魔したのに千は機嫌がよさそうにクスクス笑って体を起こした。
5分寝るんじゃなかったの?
5分どころか、まだまだ寝てていいのに。
「風呂、入るんだろ。お湯はってくる。
俺は寝る前入ったけど」
「え、オレシャワーでいいよ?」
「だめ。湯冷めして風邪ひかせたくねぇ」
「もう」
気だるげにベットからおりて、千が浴室に向かう。
こんなに大切にされて、オレはどうしたらいいんだろう。
やっぱりなにもしないで寝てるだけってのは申し訳なくてオレもなにか手伝おうとベットから降りた。
「ひゃ……っ」
その瞬間、腰が浮くように力が入らず、ぺちゃっとその場に崩れてしまった。
うそでしょ。
「せ、千~~~」
申し訳なく思いながらも、声を出すと千が戻ってきて呆れたようにオレを見下ろした。
「じっとしてらんねぇのかお前は」
「ごめんねぇ」
手を伸ばすと、軽々と抱き上げられる。
「痛みはないのか?」
「ないよー。ちょっと力入らないだけー」
いっぱいエッチした次の日、たまにこうなるけど、千とのエッチのあとはいつも痛みはなかった。
「だっこされるの慣れたな」
「うん?いつもごめんねー」
「嬉しそうに言うんじゃねぇよ」
優しく笑いながら千はオレを浴室に運んだ。
最初は重くないかなとか、恥ずかしさとかあってすごく抵抗したけど、軽々とオレを包みあげてくれる逞しい腕の安心感に自然と身を委ねるようになっていた。
でもやっぱり服を脱がされるのは恥ずかしい。
「……千。オレ自分で脱げる」
「そ?じゃあ見てるから脱げよ」
「や、やっぱり脱がして!」
オレの着ているニットから離れそうになった手をつかむと、千がクスクス笑って脱がせてくれた。
下は何もつけてなかったから簡単に裸になって、どこをどう隠していいのか戸惑う。
千もさっさと服を脱いで、また抱き上げられた。
温かい肌にぴったりくっついて、恥ずかしいけど気持ちいい。
自分でできるって言っても、体まで洗ってくれて、少し熱めの温度のお湯に二人でつかった。
「きもちいいねぇ」
後ろからオレを包むように湯船につかる千にもたれて見上げると、眠たそうに片目を閉じてながらも、優しく笑い返してくれる。
オレが気を失ってる間、千はオレのために動き回ってくれていたんだから千だって寝不足のはず。
お風呂すらこんなに心配させて申し訳ないな。
「千、ベットで寝る?もう出ようか?」
「いや?風呂場だとリチェールの声が響いて心地いい」
「……どうも」
そう言うこと言われると逆に恥ずかしくて声が出せずぶくぶくと鼻までお湯につけた。
「そういえば今後の予定ってどうしたらいいのかな?」
「あー、明後日、日本に帰る」
「そうなの?」
相変わらず行動の早い千に意表を突かれる。
てか、そんなに早く帰れるものなの?
父さんや母さんのことはどうなるの?
「今日は午前中に病院に行って、午後にお前の叔父さんに会いに行く。
午後はリチェールはここで寝てろよ」
「え、やだ。グレッグ叔父さんでしょ?
話し合いの邪魔しないからオレもいきたいー」
千が考えるように出すバスタブに肘をついて頭を乗せる。
グレッグ叔父さんは弟の父さんとも仲悪かったし、ほとんど会ったことないけどよく思われてないのは知っていた。
多分、千はグレッグ叔父さんの言葉でオレが傷付かないかと思ってるんだろうけど、あの人になにか言われてもなんとも思わないのに。
それにオレのことなんだから直接お礼も謝罪もしたいし。
「………まぁ、いいか。
朝食と昼食ちゃんと食べれたら連れてってやる。
少しでも目眩とかしたら隠さずちゃんと言えよ」
「やったー」
千がしょうがねぇなって笑いながら、オレの頭にキスをしてくれる。
なんか、こうやって愛でるような仕草が本当にここのところ多い気がする。
嬉しいけど、ドキドキしすぎて落ち着かない。
「飛行機、昨日ネットで予約したら、明後日しかとれなかったから明日は予定が空くけどなにかイギリスでやっておきたいとか、会っておきたい友達とかいねぇの?」
「……んー、大丈夫かなぁ」
「本当に?」
「ほら、こんな顔だし。今はやめとくー」
本当はひとつだけ気がかりなことがあったけど、言っていいのか分からずヘラヘラ笑って言葉を濁した。
千は優しいから許してくれないだろう。
本当は、父さんと母さんにお別れの挨拶くらいしたかった。
父さんは怖くて仕方ないし、母さんに騙されたことはやっぱりショックだったけど。
やっぱり、オレを17年も育ててくれた親だから。
もう会わないんだと思うと、無償に最後に顔だけでも見て、さよならをしたかった。
でもそんなこと、オレの立場で言っちゃいけないことくらい、ちゃんとわかってる。
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