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イギリス
千と店を出てグレッグ叔父さんの家に向かった。
タクシーでついた時間も約束の5分前とちょうどよく、そのまま家のチャイムを鳴らした。
「体調悪くなったらどんなに話し込んでても声かけろよ」
「うん。ありがとう」
二人で短く会話をしてると、ドアがゆっくり空いて40代くらいの女性が顔を出した。
『いらっしゃい。月城さん』
『何度もお訪ねしてしまいすみません。
グレッグさんはご在宅ですか?』
『ええ。リビングで待ってるわ。
そちらの可愛らしい子はもしかしてリチェール?』
女性がちらっとオレに目線を向け、目が合うと年を重ねたけれどロレッタ叔母さんということに気付いた。
『ご無沙汰してます。ロレッタ叔母さん』
笑って右手を差し出すと、ロレッタ叔母さんもぎこちなく笑って握手してくれた。
『本当にエリシアよく似てるわね』
『よく言われます』
そう返すと、とりあえずあがって、と部屋に案内された。
案内された先のリビングでは白髪の大柄なおじさんがソファに腰かけていた。
『グレッグ!リチェールも来てくれたわよ』
ロレッタ叔母さんに声をかけられ、振り返ったおじさんは、記憶よりもだいぶ太っていて一瞬わからなかったけれど、グレッグ叔父さんの面影を残していた。
『リチェール?リチェールか?大きくなったな。本当にエリシアにそっくりだ』
目が合うとビックリしたようにオレを上から下まで見て近付いてくる。
『グレッグ叔父さん、ご無沙汰してます。
今回はオレ達家族のことでたくさん迷惑かけてしまいごめんなさい』
『いやいいんだよ。面倒なことは全部月城さんが引き受けてくれるから!
お前は日本に行くんだろ?』
引っ掛かる物言いに千がピクッと眉を沈める。
元からグレッグ叔父さんたちの家とは仲良くないし分かってたことだからなんとも思わないのに。
『そういえばリチェール!トニーとザックも今いるのよ。
大人が話してる間、子供たち同士で遊んでおきない』
空気を読んでくれたのか、ロレッタ叔母さんが2階への階段を指してそう言った。
トニーとザックは双子のいとこで、ひとつ歳上の二人には小さい時よくいじめられた覚えがある。
だから正直気持ち的には微妙だけど、断るわけにもいかず笑って頷いた。
「千、ごめんね。行ってくるね」
「ああ。いとこなんだろ?こっちもすぐ話終わらせるから」
日本語でこっそり会話すると、三人を残して、2階に上がった。
2階は空間ごと一部屋になっていて、テレビゲームをしていた二人の大柄な男に声をかけた。
『トニー、ザック』
名前呼ぶと、最後の記憶の二人がそのまま肉を付けて大きくしたような顔立ちが振り返った。
『あ?だれ?』
『さぁ?』
『リチェールだよ。覚えてる?』
『え!?あのちびのリチェール!?』
『女かと思った!本当にイギリスに帰ってきてたんだ?』
ちびとか、女かと思ったとか、胸にしまっとけと思いながらも、愛想笑いを浮かべる。
ゲームをやめて立ち上がった二人は、180くらいありそうな身長に加えて肉付きもよくとにかく大きく感じた。
『今、下でオレの日本での保護者とグレッグ叔父さんが話してて、その間ここにいていいかな?』
『OK。ついさっきまでリチェールの話してたんだよ俺達』
小さいときはよく体が小さいことで苛められたけど、いとこなんだよな。
これからグレッグ叔父さんにはしばらく多少なりとお世話になるんだし仲良くしなきゃ。
『そうなの?覚えててくれて嬉しい。何て話してたの?』
『母さんから聞いたけどお前さ、ロン伯父さんとセックスしてたんだろ?』
バカにしたように言うザックに、トニーがぶはっと吹き出して笑った。
ぴしっとオレの笑顔が凍り付く。
警察から聞いたんだろうし、叔父さんや叔母さんが知ってるのはまだいい。
でも、なんでこいつらに言うかな。
『気持ち悪いよなー、ロン伯父さん!いくらこいつが女みたいだからって息子だぜ?オエ!』
『普通ありえないよな?あ!リチェールから誘ったんじゃねぇの?』
『ありえる!なぁそのエリシア伯母さんと同じ顔で迫ったんだろ!』
『なんとか言えよ』
なにも言わないでいるオレをザックがどんっと胸を叩く。
くだらない。
そんなネタでバカにされたって、こいつらと関わることはもうそうそう無いんだから、何て言われようとどうでもいい。
『好きに言えばいいだろ?お前ら相変わらずガキ臭いな』
でも言われっぱなしも癪だからふんっと笑ってソファに腰を掛けた。
カッとなったようにぎゃんぎゃん言うこいつらの話を適当に聞きながして時計を見る。
一時間くらいと言ってたかな。
千が話を終わらせたらさっさと帰ろう。
それでいっぱいぎゅーってするんだ。
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