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イギリス
『シカトしてんじゃねぇよ!クソビッチが!』
『なぁ、自分の父親とすんのどうだったのか言ってみろよ』
うるせーよ、童貞。
って言ってやろうかとも思ったけど、相手にしたら敗けだと無視を決め込んだ。
それに童貞ってブーメランだよな。
『その体で伯父さんと寝たんだろ?なぁやっぱナニ突っ込まれると後ろの穴形変わんの?』
「てかお前本当にちんこついてる?ちょっと見せてみろよ」
はぁ?
トニーのありえない発言に睨むと、ザックもニヤニヤと笑って頷いた。
『昔っから性別怪しかったもんな?また、確認しなきゃな?』
トニーの手がオレの服にかかり、やめろよ!と振り払った。
叔父さんと叔母さんには嫌な顔されるだろうけど、下手に騒ぎになる前に下に行こうと立ち上がるとがっしり捕まれた。
『喧嘩売っといて逃げんじゃねーよ』
服を乱暴に引っ張られて、足がもつれ尻餅をついてしまう。
『お前らさ、脳みそついてんの?下にお前らの両親もオレの保護者もいるんだけど?』
負けじと睨むと、ザックとトニーが声を出して笑った。
『ばーか!親がこどもの喧嘩に口出すかよ!』
『どうにかしてもらえるって思うなら言えば?自分の口で今からされることを言ってみろよ!』
二人の嘲笑う声に、ふぅっとため息をつく。
親が子供の喧嘩に口出すかよ、ね。
……この恵まれなかった体格のせいでバカにされることは多々あるけどさ。
尻餅をついた低い位置から近づいてきたトニーの足を払って転ばせて鳩尾に拳を叩き込んだ。
『うぐ……っ』
『なにすんだこのちび!!』
怒ったザックに頬を殴られ、その勢いを利用して横っ面に回し蹴りをお見舞いした。
_____オレ、別に喧嘩弱くはないんだって。
『オレみたいなチビで貧相な体型なやつに二人掛かりで負けたって自分の口で言えるなら言えよ』
うずくまる二人には吐き捨てて起き上がろうとするより早く階段に向かった。
本当に騒がれたらどうしようとも思ったけど、小さい頃二人にはいじめられてたからちょっとスッキリした。
降りてきたオレを話し込んでた三人の目線が注目する。
『あら!リチェールどうしたの、その頬は!』
声をあげるロレッタ叔母さんの後ろで千がすっと顔を曇らせる。
『目眩がして棚でぶつけちゃいました』
『あら大変!2階のベットで休んでたら?』
『いえ、なにかあって気付けないのも怖いのでここにいさせます』
2階にオレを戻そうとするロレッタ叔母さんに千が立ち上がってオレの肩を抱いた。
千はたぶん何かあったことを察してくれたらしく、雰囲気が少し鋭い。
千の隣に腰をおろすと、グレッグ叔父さんが呆れたようにため息をついた。
『もう少しで終わるからいいけどね。
少しリチェールを甘やかしすぎじゃないか?
大人同士の話し合いも待てないなんて』
『お言葉ですが、リチェールはとても聡明で賢い子です。もう自分のことは自分で決められるのだから、この場にいて意思をきちんと言わせてやってください』
オレは千に甘えすぎてるし、グレッグ叔父さんに何て言われてもなんともないのに、ちゃんとフォローしてくれる千に暖かい気持ちになる。
『とは言え、リチェールの意思がどうだろうと私はリチェールを引き取るつもりはありませんよ』
『ええ、大丈夫です。私も預けるつもりはありませんから。お互いのためにうまくやりましょう?』
だからさっさと書け、と言うように千が笑顔で威圧をかけると、グレッグ叔父さんがふんっと鼻をならして書類にサインをして行った。
こんなに殺伐とした雰囲気だなんて思ってなかったから、少し気まずい気持ちになる。
『あの、オレのせいでお手数をかけてすみません』
申し訳なさから小さく謝ると、長くため息をつかれた。
『いいよ。ロンが俺に迷惑をかけるのは昔からだから慣れてる』
『………すみません』
『いいって。それより聞いた?エリシアは明日釈放されるみたいだよ』
『えっ』
驚いて顔をあげると、叔父さんが書類を書く手を止めて面倒くさそうにため息をついた。
『まぁ縁を切るならリチェールには関係ないかな』
その言葉にひどく動揺する。
母さんが?たしかに手を加えてない母さんは取り調べくらいで、そんなに長く入ってるはずがないとは思ってたけど。
『グレッグさん。その書類で最後なので、あとのリチェールの両親の話はすみませんが後日電話でさせていただいてよろしいですか?
リチェールも退院したばかりで体調も安定してないので今日は失礼させていただきます』
千も知っていたようでまるでその話にオレをいれないように会話を遮った。
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