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お迎え

1時間くらい車を走らせて、千の家に到着した。 千の家より近いオレの家の近く通り過ぎて当たり前のように千の家についたことに、戸惑っていると千がドアを開けてオレの手を引いてくれた。 今からここからオレの家に帰るにしても電車は走ってる時間だし、泊まることになっても明日は休みだからいいかな。 降りようとすると、純ちゃんにくんっと服を捕まれた。 「ん?なぁに純ちゃん」 まだ少し不機嫌そうなのに顔はほんのり赤くて、複雑な心境が目に見える。 「……ルリの家に泊まりたい」 それなのに、こう言うこと言ってくるから、堪らないよな。 「〜っかわいい!!もう、どうしてそんなにかわいいの?いいよ!ここから電車で少しかかるけど、オレの家にお泊まりする?お泊まり勉強会しようか!純ちゃんかわいいなぁもう〜」 かわいい。どうしよう。頬擦りしちゃうくらいかわいい。 いいよね!?って千を見ると、視線で雅人さんを指した。 その視線をまだ追うと、感情が一切わからない御伽噺の王子様みたいなさわやかな笑顔でこっちを見ていた。 「ルーリくん。君は体弱いし、イギリスと日本の短期間の行き来で疲れてるだろうしまた風邪引いても大変だから今日はゆっくり千くんの家で休みなよー?」 「俺今日はルリと離れたくない」 「ぶち犯すぞてめぇ」 なんて言った!? 相変わらず完璧な笑顔のまま、その綺麗な顔から吐き出されたのか疑うほどの低い声に、びくっと思わず純ちゃんを抱きしめてしまう。 雅人さんが言ったの今のセリフ。 本気ではないんだろうけど、そんな怖い声でそんなセリフやめてよ。純ちゃんが怖がっちゃう。 「……リチェール。火に油だからとりあえず離れろ」 呆れたように千がオレの体をひょいっと抱き上げてするりと純ちゃんと離れてしまう。 その瞬間、純ちゃんが傷付いたように瞳を揺らした。 本当にどうしちゃったの? こんなにデレデレな子だったっけ? 「わぁ、純ちゃん泣きそう?泣かないでー?」 「_________だ、ってルリが、死、のうと……っしたってぇ……っ」 大きなアーモンドの形の瞳からぼたぼたと涙が溢れた。 思わず息を飲む。 「……どうして、知って………」 しまった。 これじゃあ、肯定してるようなものだ。 動揺して出てしまった言葉に、とっさに口を手で押さえると、余計にボロボロ泣き出してしまった。 「……ごめん。担任としてね、千くんから概要聞いたんだけど。まさか純也にそこまで聞かれてるとは」 雅人さんが気まずそうに振り返った。 それは、人に言えないようなことしでかしたオレが悪いんだからいいけど。 純ちゃんになんて言い訳をしたらいいのかわからない。 「……つ、きしろ、が、記憶、なくしても……っ俺が、いたじゃん……っ俺、が、いたら癒さ、れるって、言ってたじゃん……っ」 ひっく、ひっく、としゃくり上げながら泣き出した純ちゃんは、きっとずっと泣くのを我慢してくれてたんだと思う。 この涙を見て、初めてどれだけ周りの人に酷いことをしてしまったのか痛感した。 「……っじゅんちゃん、ごめんね…っ」 寒さに弱いのに、傷ついたオレのために付き合って屋上で話を聞いてくれた。 オレのことを悪く言う累くんに、自分が悪者になることを厭わずに怒ってくれた。 ずっと、ずっとオレの味方でいてくれたのに。 「ごめんなさいぃ〜っ」 気が付けばオレもボロボロ泣いてしまって、純ちゃんを抱き着いた。 "ルリが良くても俺が許せない" "お前はもっと自分のために怒っていいと思うよ" "辛いなら辛いって言えよ" 純ちゃんはいつもオレと一緒に怒ってくれてたよね。 オレと一緒に悲しんでくれてたよね。 舌を噛んだあの瞬間、オレは純ちゃんにも歯を立ててたんだね。 ……そばにいなくても、一緒に痛かったんだね。 男にしては少し小さめのちょうど同じくらいの大きさの体を抱き合って、二人でわんわん泣いた。 ごめんなさい。 _________もう二度とオレは大切な人を傷つける真似しないから。 ……千と雅人さんは何も言わないでオレ達が泣き止むのを待ってくれてた。

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