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痛感

累side あのスヌードの件から一週間と少し、僕はずっと体調を崩して学校を休んでいた。 先生が僕を攻めたことがショックで過呼吸ばかり起こして、中々怖くて学校に来れずにいたけど、テスト明けの今日の3限目からようやく学校に登校できた。 保健室の前に立ち、不安な気持ちを押し込めるように深く深呼吸をして、ドアをコンコンとノックをする。 「はい」 中からすぐに低くて甘い大好きな声が聞こえてきて、ドアをゆっくりスライドした。 不安な気持ち一杯で泣きそうになりながら先生をみると、先生がパソコンから顔をあげて穏やかに微笑んだ。 「折山、来れたんだな」 「……うん」 小さく頷いて、先生のそばに行くとパソコンを閉じて隣に丸いすを準備してくれた。 ほらね、仕事をやめて僕を大切にしてくれる。 先生はやっぱり僕を特別扱いしてくれてる。 「勉強、わからないところあったら言えよ?」 「うん……」 優しく言われ、ほっと胸を撫で下ろした。 またスヌードのことを攻められたら、僕はもう一生家から出られなかったと思う。 リュックから問題集を取り出して、ぴったり甘えるように先生にひっついた。 テストを受けれなかった分、赤点を取った補修の人たちとテストを受けるから、僕のテストはまだまだこれから。 間に合うかな。 「ここ、わかんない」 「ここな。これは……」 すぐに教科書を取り出して、他の先生よりずっと分かりやすく教えてくれる。 先生の甘い匂いを密かに嗅ぎながらドキドキしてると、バタバタと廊下から足音が近付いてきてバン!!っと勢いよく開いた。 「月城ー!!ルリが!!!やべぇ!!!」 ルリくんとよくいる黒髪の口の悪い男の子が半泣きで立っていて、先生がぴくっと眉を潜めた。 「リチェールが?」 一週間前とは違う呼び方に、頭にガン!と殴られたような衝撃が走って時が止まった。 「なんか移動教室の途中で倒れて、動かねぇんだけど! あとめっちゃ体熱い!今雄一が運んできてる!」 ショックで固まる僕をよそに黒髪の子が先生に捲し立てるように言う。  内容が頭に入るたび、どくどくとまるで警笛をならすように心臓が早鐘を打つ。 いやだ。 先生、ルリくんのところに行かないで。 心配そうな顔なんてしないで。 僕を優先して。 恐る恐る先生を見上げると、眉間にシワを寄せて見たこともないような顔で盛大に舌打ちをした。 「あの、バカはまた………」 子供が見たらみんな泣いてしまうんじゃやいかってくらい怖い顔。 バカってルリくんのこと? 先生がこんなこと言うの初めてみた。 どうして、アンジェリーじゃなくて、またリチェールって呼んでるの? 「原野。リチェールはどこだ?」 「美術室の外廊下で倒れて、今こっちに向かってる」 「わかった」 短く会話を済ませると、先生はベットに厚手の毛布を準備して、氷嚢を冷凍庫から取り出した。 僕をおいて飛びだしてないし、心配そうな表情なんてしてない。むしろ怒ってるように見える。 なのに、なんでこんなに、モヤモヤしてるんだろう。 「先生ー!ルリのバカがまた倒れた!! こいつ多分体調悪いの隠してたよ絶対!体くそ熱いもん!」 また一人ひとが増えて、こちらもルリくんとよくいる人だ。 その人の背中にはこんなに寒いのに汗をかいてぐったりしてるルリくんが乗っていた。 「貸せ」 先生は低くそう言うとルリくんを受け取り、ベットにおろして額に手を当てた。   そしてまた険しくなる表情に怖くて何も言えない。 「………せ、ん………?」   赤くほてった頬と潤んだ瞳をうっすら開けてぼーっと先生を見上げるルリくんはなんだか卑猥だ。 こんなの、ずるい。 もう保健室に来ないって僕に言ってたくせに弱ったふりして、色目使って。 どうせこうやってあいつらに目をつけられたに決まってる。 あの時のルリくんがあいつらにひどいこされたのは自業自得。 これではっきりした。それなのに僕ばかりが傷付いて、ばかみたい。 こんな色気を出されて、先生もグッと来たのだろうと悔しくて唇を噛み締めた瞬間、先生の罵声が響いた。 「このバカ!! だれがこんな熱を放置しろって言った!いい加減にしねぇとマジで監禁するぞ!」 この場にいた全員がビクッと縮こまる迫力に、真っ正面から受けたルリくんは泣きそうな顔で震えた。 先生が声を張り上げるところも、こんなに感情を見せることも初めてだ。 だって、僕が過呼吸になったときも、リストカットしたときも、いつも優しく笑って手当てしてくれたはずなのに。 僕だけが、特別なはずなのに。 「リチェール、とりあえずこれ飲め。解熱剤」 先生に渡された水の入ったグラスを持とうとして、怯えてるせいか震えた手がグラスを落としそうになったのをまた先生が支えた。 薬もコロコロ転がしてしまい、ルリくんがぼーっとした顔で困ったように先生を見上げる。 ちっ、とまた小さく舌打ちして、先生はベットカーテンをしめた。 なんで?と思ってると、中からぴちゃっと微かに水音が聞こえ、ルリくんの友達二人が察したように顔を背けた。 「………ふ……っんぅ」 小さく漏れた甘い声に、まさか、と目の前が真っ暗になった。 やだ、やだ。先生は、僕だけのもの。 ルリくんは、友達もいるでしょ?こんなに心配してくれる優しい友達が。 僕には、先生だけなのに、どうして。

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