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痛感

純也side 雄一が俺とルリの教材を持って教室に戻ると、すぐにルリのベットにむかった。 ベットカーテンを開けると、ルリが口元を押さえて踞っていた。 「ルリ!?どうした!気持ち悪いの!?」 目に涙うかべて本当に苦しそうだ。 声を押し殺して、背中を丸める姿に胸が痛む。 なんでこんなにキツいなら声あげねーんだよ。 「ルリ?月城呼ぶ?」 そう言うと、ゆるゆると首をふる。 こういうやつだよ。今は累くんの方が大変なんだからって思ってるんだろうけど。 「じゅ、ちゃ……ごめ……吐きそ……」 うっと喉をならしながら途切れ途切れに言うルリに、ますます焦る。 「まってろ!」 すぐに外に出て、月城から袋をもらいまたすぐルリの元に戻った。 月城も、そんなやつほっといてなんでルリについてないんだよ!ありえないだろ! 「ルリ!出していいぞ!」 ルリの口に袋を当てて、背中を叩くとルリがうっと苦しそうに呻く。 そのまま少し嘔吐して、朝から何も食べてなかったんじゃないかと言うほど水しか出てこない。 そういえば、テスト期間中は集中するために自分の家に戻ってるって言ってた気がする。 水すらもすぐ切れて、出すものがないのにうっと苦しそうに何度も体を揺らす。 さっき月城が飲ませた解熱剤は間違いなく吐いただろう。 「吐き気治まった?水飲めるか?」 「うん……水のみたい。解熱剤ももっかいもらおうかな」 吐いて涙目なルリはそれでも、へらりと笑う。 こいつのこーゆーとこ、本当に腹立つ。 頬を触ると、驚くほど熱くてとにかくもう一度解熱剤を飲ませた。 また吐きそうなのか口元を押さえて、ベットに蹲る姿にこれ以上どうすることもできなくて、戸惑う。 雄一からルリは体が丈夫じゃないと聞いてたけど、いつも笑ってるから全然わからない。 現に、倒れる直前までルリの笑顔は完璧だった。 イライラする。こんなときにチビブタを優先する月城にも、甘えないルリにも。 しばらくして、ルリが少しは吐き気も治まったのかぐったりと目を閉じて浅い呼吸を繰り返していた。 チビブタも落ち着いたらしく、隣のベットに横になっているけど、月城の手をガッチリつかんで離さない。 「ルリ、冷えピタ貼るぞ」 勝手に棚からとった冷えピタをもって、長い前髪を指でどかすと、ぼんやりした目を向けてくるルリに、ドキッとする。 本当にこいつはときどき危ないほど色っぽい顔をする。   「……ルリ、早退する……?俺看病するよ?」 それが一番いいと思う。 ルリはこの保健室にいたくないだろうし。 ルリはうっすら目を開けて、弱々しく微笑んだ。        「ん。純ちゃん、タクシー呼んで…?」 「わかっ……」 「だめだ。早退するなら俺が送るからここで寝てろ」   ベットの外から月城の厳しい声が届いた。 聞いてたのか。 本当に何がしたいんだよ。こいつは。 イライラしてなにか言ってやろうとすると、ルリに袖をつかんで止められる。 パクパクと小声でなにか言うから耳を近づけた。 「ごめんね。千、心配性なの」 心配性?どこが? 今お前は放置されてるんだぞ。 困惑してると、またベットの外から月城が言葉を続けた。 「原野。リチェールはこのまま放課後まで保健室にはいさせるけど、次の授業から早退扱いにするよう佐倉に伝言してきてくれ」 なんだそれ!自分は折山に付きっきりなくせに! そんなところにルリがいたいわけないだろ! もうあれだ。担任は雅人なんだからあいつに言ってルリを連れて帰ってやる! ルリの頭をわしわし撫でると、乱暴にドアを閉めて保健室をあとにした。

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