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痛感
「あー、それは俺が千くんの立場でもそうするわ」
科学準備室でパソコンに向かう雅人にドアを開けてすぐ掴みかかりさっきのムカつくことを愚痴ると、あり得ないことに月城の味方だった。
眉間にシワを寄せて睨み付けると、指でくるっとペンを回して、困ったように雅人が笑う。
「たとえば純也が熱を出したとして、そこに俺しか相手ができない過呼吸の子がいるんでしょう?
俺らは悲しいけど大人だし、仕事だからね。
それに純也も気付けなかったルリくんの圧し殺した嗚咽にその子を相手してた、千くんが気付いたんでしょ?
どんだけルリくんのこと気にしてんだよって感じじゃん」
……言われてみたら。
俺も雄一も、ルリのことを心配で仕方なかったけど月城に言われるまで気付かなかった。
ハッとして、考え込んでいると、雅人が言葉を続ける。
「それにさぁ、千くんもまぁまぁ余裕ないよね。口移しで飲ませたんでしょ?
しかも、絶対その子がめんどくさいことになるからルリくんが早退するって言うなら帰らせた方が楽なのに、引き止めるなんて、要するに放課後まで看て自分が家に連れて帰りたいんでしょ?」
そうなのか?
でも、たしかに。月城からしたらルリが帰った方がチビブタがおさまるんだから、それにこしたことはないはず。
なるほど、と益々黙り混む俺に雅人が「純ちゃんはなにもわかってないなぁ」と、どや顔を決める。きめぇ。
「だからって、なんでチビブタを構うんだよ!ルリが悲しむだろ!」
「ええー?それこそ、その子のこと眼中にないからこそでしょ?」
あと、チビブタって言っちゃダメだよと、雅人がでこぴんをしてくる。うぜぇ。
納得がいかず、ふて腐れてると、雅人が頬杖をついて、んーと唸った。
「俺らは教師だから、親御さんから大切なお子さんを預かってるわけだよ?
千くんの対応は、マニュアル通りにやってますって感じじゃん。
むしろルリくんのことは少し意地になって子供っぽさ出ちゃってるよ。まぁ何度も言うように、俺がその立場でもそうしちゃうだろうけど」
「はぁ?」
「純也が大切すぎて冷静でいられないってこと」
「…………あっそ」
なんで言うかな、そんなこと。
恥ずかしげもなくさ。
俺の方が恥ずかしくなる。
熱くなった顔を誤魔化すように険しくして目をそらすと、雅人がクスクスと楽しそうに笑う。
いつの間にか月城への怒りがおさまり、少し反省をする。
たしかに、普通に接してるけど雅人も月城も今は仕事中で、仕事を優先しないなんて男じゃないと思う。
ルリが心配で冷静でなかったし、ガキっぽいことをしてしまったと、少し反省した。
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