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痛感

カチカチ歯をならして震える累くんはもうさっきまでの威勢はない。 ぽたぽたと血が流れ落ちズキズキと傷む右手をから気をそらすように、口を開いた。 「あの人がどっちを特別に思ってるかなんてどうでもいい。 あの人はオレのだよ。少なくとも自分のことしか考えられないキミには渡さない」 オレだって、バカじゃない。 オレが田所からばらすぞと脅されたとき千が守ってくれたように、オレだって千を守りたい。 もう一歩も引かない。だれかに見られたって聞かれたって、うまく誤魔化してやる。 千に頼りっぱなしでなんかでいるもんか。 あの人は、オレのだ。 怯える累くんを睨み付けたままお互い動かないでいると、ガラッとドアがスライドした。 騒ぎを誰かが聞き付けたのかと、内心ギクッとしながら冷静な顔を装って見あげると、千が眉を潜めて立っていた。 「あ………」 千が睨む視線はオレの血だらけの右手。 しまったと、とっさに拳を開くと、赤く染まったガラスがバラバラと床に落ちる。 それを見た千がさらに表情を険しくする。 「せんせぇ…………っ」 ぶわっと累くんが泣き出して、千さんにしがみつく。 その姿にもいらっとした。 触るんじゃねぇよ。と、純ちゃんみたいな口調でいいそうになって、すっと無表情を装う。 千がしがみついてくる累くんの肩をポンポンと撫でながら、俺に目で『なんでこいつがいんだよ。保健室開けるなっていっただろ』と訴えかけてくる。 謝ろうとしたけど、千の顔を見た瞬間、張り詰めていた緊張がほどけて、ぐらっと視界が大きく揺れて、膝をついた。 やばい。 もう千の顔は怖くて見れない。 いっそのまま気を失いたいとさえ思う。 はーっと千の呆れたようなため息が聞こえた。 「大丈夫か折山。リチェールにまた怖いことされたんだろ。全部こいつが悪いわ。もう大丈夫だから、こっちでしっかり叱っとくから」 「え、う、うん……」 呆然とする累くんに笑いかけて頭を撫でると、そのままドアまで連れていってしまった。 「折山も久しぶりの学校で疲れただろ?今日は頑張って来て偉かったな。明日も来れそうか?」 「……頑張る」 「偉い。じゃあ、明日も待ってる」 戸惑いながら促されるままに累くんが保健室から出ると、「じゃあリチェールのこと説教しとくから、気を付けて帰れよ」と言ってドアを閉め鍵をかける音が聞こえた。 こんなに累くんを適当にするなんて、よっぽどの怒りが千から伝わって冷や汗が頬を伝った。

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