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痛感

累side 保健室のドアから出されて、呆然と立ち尽くした。 先生はルリくんを叱るんだろう。 でも僕のことを信じたわけじゃなくて、それは昼間のように心配だから叱るんだ。 僕は、いつも弱いところを先生に見せてるけど、叱られたことは一度もない。 いやと言うほど、先生にとって誰が特別なのか痛感してしまった。 だって今僕は一人でいて、先生はルリくんといるんだから。 なんで?いつから? 絶対僕といる時間の方が長いのに。 ルリくんがあの日犯されたから教師として責任を感じたの? どうやって同情を引いたの? ルリくんが可愛いから? でも、先生ならどんなレベルの高い美人でもよりどりのはずだ。 どうしてルリくんが特別なのかわからない。 ぐるぐると色んなことが頭を駆け巡って、気がつけば涙がボロボロ溢れていた。 「……チビブタ?」 顔を手で覆って泣いていると、横から聞こえた声にゆっくり顔をあげた。 「お前、なんで泣いて……」 そこにはルリくんとよく一緒にいる口の悪い猫目の男の子が眉を潜めて立っていた。 たしか、先生に原野と呼ばれていただろうか。 原野は僕と保健室を交互に見て、察したように息をついた。 「なんだよ。どっかいけよ。 どうせ、お前も先生もみんなあのクソビッチの味方なんだろ……っ」 こんな情けない姿見られたくなくて、こいつが怒ってどこか行くだろう言葉を吐き捨てた。 案の定原野は眉間にシワを寄せて僕を鋭く睨む。 「お前、ほんと性格悪いよな」 お前に言われたくない。原野だって、登校拒否だったくせに。 「だからなに!?うるさいな! このこと先生にバラしたいならバラせば!?どっかいってよ!みんなだいっきらい!」 ボロボロ涙が止まらなくて、原野に鞄を投げ付けた。 原野の胸に当たって床に落ちた鞄を、原野がめんどくさそうに拾う。 「バラしてどうなるんだよ。月城は興味ないとおもうけど」 言われた言葉にカァっと顔が熱くなる。 そんなこといちいち言われなくてもわかってる! 「うるさ、」 「だからさ、そんな無駄な努力やめたら? 気を引こうたって無理なら、別のに興味もったらいいじゃん。男なら往生際大事だぞ」 言葉を遮られ、思わず涙が止まる。 そして、わかったような口を利くこいつにいらっとした。 「……ぼ、僕だって、やめれるなら……」 「あ?うじうじうっせーな男なら腹から声出せ」 なんでもかんでも言葉を遮られ、ブチっときて原野に掴みかかった。 「うるさいな!僕には先生だけなの!やめれるならやめたいよ!でも苦しくて苦しくて無理なんだもん!あの人しかいないんだよ僕には!」 「何女々しいこと言ってんだ!男ならグダグダ言うな!黙ってたえろ!!」 向こうも言い返してくるから、僕も負けたくなくて火がつく。 「女々しいってなに!原野の方が女みたいな顔してるくせに!」 「んだとてめぇ!てか、大体なんで俺がてめぇなんか慰めてんだよ! 俺お前のこと嫌いなんだからな! ルリのことヤリマンクソビッチチビ野郎って言いやがって!!」 「はぁ!?慰めてる!どこが!?あったまおかしいんじゃない!」 罵りあってるだけだろ!こんなの! 慰めてるとか図々しい。きらい!きらい! 「てか僕ルリくんのことそこまで言ってないし!脚色するなよ!」 「あ?淫乱クソビッチ豚だったか? 豚はてめーだろが、チビブタ!!」 「まず豚って言ってないし!!」 お互いに掴み合って、罵声を浴びせて、はぁはぁっと息を切らす。 「………豚は、言ってないな。たしかに。 あいつ豚ってよりはガイコツだしな」 ふと、原野が考えで頷く。 なにいきなり。 てかガイコツも中々ひどいと思うけど。 そう思うと、ふはっとつい吹いてしまって、ハッと口元を押さえた。    見られたかと思って、原野を見ると少し驚いたような顔をして僕を見ていた。 それから疲れたようにはーっと息をつく。 なんなのこいつ。疲れたのは僕だっての。 「とにかく、お前これだけ声だして言えるなら、うじうじ汚い手使わないで口で言えよ」 ばつが悪そうに顔を背けて僕に掴みかかってた手をおろす原野に、余計なお世話だと悪態をついた。 原野はもう何も言い返して来なくて、そのまま僕の鞄をつかんで渡してきた。 「ほら」 なんだか腑に落ちなくて、渡された鞄をひったくるように取ると、原野はムッとした顔しつつも、そのままくるっと振り返って離れていった。 僕もムカついて、イライラしながらその場を離れて家まで早足に帰った。 なんなのあいつ。ルリくんはあんなに言葉も雰囲気も柔らかいのに! そう思って、ハッとする。 さっきまで、あんなに苦しくて仕方なかったのにいつのまにか怒りで忘れていた。 そういえば、いつぶりだろう。あんなに大声で誰かと口喧嘩したのは。 また、あいつを思い出していらっとする。 てかナチュラルに僕をチビブタってよんでんじゃねーよ! 明日からしばらく休もうと思ってたけど、落ち込んでるとあいつに思われると負けたようで、明日は意地でも行って文句を言ってやる! そう決めて、僕は怒りをぶつけるように鞄をベットに投げ付けた。  

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