272 / 594

コタツ

雅人side 土曜日の昼下がり。 無事期末テスト期間を終えて、クリスマスが近付くにつれどんどん寒さは本番を迎えていく。 俺は寒さには強いし、エアコンとホットカーペットだけでいつも冬を過ごしていたけど、うちの意地っ張りな猫があまりにも寒がるからコタツを買おうか悩んでいた。 「ねぇ純也ー。今からコタツ買いにいくー?」 「あ?なんでだよ」 「今年の冬は寒いからほしいなーって」 本当はそうでもないけど、これでお前のためだと言ったら買ったとしても絶対にコタツに入らないだろう。 純也が疑わしそうに俺をじーっと見る。 「俺は寒くねぇ」 「うんでも、俺がほしいからデート付き合ってよ」 「そのパーカーの下はTシャツだけのくせによく言うよ」 家の中って冬でもこんなもんじゃない? なんならホットカーペットあるならエアコンなしでも過ごせるくらいだけど。 「今度、千くんとルリくん誘って鍋ぱしたいなーって思うんだよね。 二人を招待するのにコタツは必要でしょー」 ルリくんの名前を聞いて、純也がぴくっと反応する。 どんだけルリくん好きなんだよ。ちょっと妬けるんだけど。 「そうだな。ルリは体弱いから温めてやらないとな」 「うんうん、だよねぇ」 ちょうど出来上がったパスタを二人分テーブルに並べると、純也が携帯でしていたゲームをやめてとてとてとやってくる。 二人でテーブルに向かい合っていただきますと手を合わせるのも、もう日常だ。 ____________ パスタを食べ終わって、簡単に片付けると早速二人で車に乗り込む。 ホームセンターで、そんなに大きすぎないコタツを買って配送の手配をした。   在庫もちょうどあり、明日には届くらしい。 コタツ布団は無地の茶色で落ち着いたものを選んだ。 「純也、ついでに今日は外でなにか甘いもの食べて帰る?どこか行きたいところあったら言ってね」 助手席でマフラーを赤い鼻まであげて暖をとる純也を横目で見て、車内のエアコンを強くした。 「別にない。早く帰りたい」 「そう?今日はちょっと冷え込んでるからね」 「あ、でも家に帰って取りたいものがあるから寄って」 「オッケー」 純也の嘘をすぐ見抜いたけど、気付かないふりして笑った。 本当は取りたいものなんてない。 こいつは、母親が自分を気にしてくれることをずっと待ってるんだ。 だから純也はこうして定期的に何かと理由をつけて、自宅に足を運ぶ。 そして母親が帰ってきてる痕跡がないと、泣きそうな顔で帰ってくるんだ。 そんな顔するくらいなら、寂しいと母親に連絡をいれたらいいのに。 どこまでも意地っ張りな純也の甘やかし方がわからず、気付かれないように小さく息をついた。 「取りに行くものって重い?俺手伝おうか?」 「いや大したもんじゃねぇし。待ってて」 「そか。じゃあほら、外寒いだろ」 コートを脱いで純也に渡すと、それは素直に受け取ってくれる。 俺より一回りも小さい純也はブカブカのコートを着てアパートに向かった。 その背中を見送りながら、また泣きそうな顔で戻ってきたら、何て言って励まそうか苦笑をこぼした。 そろそろ一回、純也のお母さんとも話しなきゃなぁ。 それは、担任としてなのか、純也に惚れた身としてなのか。 どっちもあるけど、多分私情の方が勝ってる。

ともだちにシェアしよう!