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コタツ

純也side 風呂からでると部屋はすっかり暖まって、カレーのいい匂いがしていた。 「純也おかえり。 ちゃんとお水いっぱい飲んでね」 振り替えって穏やかに笑う雅人に、くせで「うっせ」と返す。 雅人は口悪いなーと笑うだけ。 雅人に好きだと言われてから、なんとなく意識してしまっていた。 男同士だぞ。ありえない。 いやまぁ、ルリと月城はいいとしてだ。 俺はありえない。 でも俺の今の現状は、居場所がほしいからと、ずるく雅人の好意を利用してる……ことになってるんだと思う。   気持ちには答えられない。 でもそばにはいてほしい。 ……できるなら、ずっと。 そんなずるい俺を雅人はそれでいいと笑ってくれるから余計に罪悪感が増す。 そもそも、雅人が本当に俺を好きかどうかなんて怪しい。 こんなに顔も良くて、優しいならさぞモテるだろう。 何でよりによって俺? 月城の人気が目立ちすぎてわかりにくいけど、相当人気だって雄一も言っていた。 それを聞いて、イラついた俺をルリが、「あららららー?」と腹立つ笑顔で頬を突いて来たから、指に噛み付いてやったけど。 「あー、純也。また髪ちゃんと乾かしてない。風邪引くだろ?」 考え事をしていたら、キッチンから出てきた雅人が俺の髪に触れて呆れたように笑う。 そのまま手を引かれて、ソファにおろされた。 本当はなんでも自分でできるけど、雅人が甘やかしてくれるからしない。 携帯ゲームしてるだけで、雅人がドライヤーで髪を乾かしてくれる。 雅人に撫でられると、恥ずかしくてつい払ってしまうけど、こうやってドライヤーをあてながら撫でられるのは、気持ちよくて落ち着く。 でも、それは危険な気持ちだと思うから深くは考えない。 二人でご飯を食べるのも、並んでソファでテレビを見るのも、当たり前になっていくことがこわい。   一緒にいようって言ってくれるけど、それっていつまでだよ。 だって、付き合ったとして、どうなるの。 結婚とか、子供とか。 雅人にはそんな暖かい家庭が似合ってる。 そんなことをグルグル考えてたら、ヴーっとスマホがバイブした。 そしてその表示された画面を見て、緊張感が高まる。 「も、もしもし!」 すぐに画面をスライドして電話をとると、母さんが電話越しにめんどくさそうに息をついた。 「純也ぁ!もう、洗濯しといてっていつも言ってるでしょ!せっかく服取りに来たのに、冬物の服が全部まだクローゼットのなかじゃん」 「…………は」 なんだそれ。 冬物?服とかさよりさ、こんな時間に俺がいないのなんとも思わねーのかよ。 大体、もう12月だっていうのにいつから帰ってきてないのか、考えることすらいやだ。 「………知らねーよ。俺も最近家に帰ってねぇし」 雅人が皿を洗う手を止めて、手を拭きながら近付いてきた。 くんじゃねぇよ。 「そうなの?なら仕方ないわねぇ。 あんた、避妊はちゃんとしなさいよ!」 「…………他に言うことないの?」 「なにが?子供さえ作らないなら、好きにしていいわよ?でもお金はかからないようにね」 ねぇ、母さん。 俺さ、この間ヤンキーの男どもに犯されそうになったんだぜ。 そんなこと、あんた知らねーだろ。 女手ひとつでここまで育ててくれたことに感謝してる。 ……してるけど。 むしゃくしゃと自分でよくわからない複雑な感情が押し寄せて、ふーっと息をつくと隣に座った雅人が片腕で俺の肩を寄せてもたれさせる。 なにがしたいのこいつは。 そんで、こんなことで気持ちが軽くなるとか、俺もなんなの。 なんだか、無性に泣きそうだ。

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