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コタツ

純也side 俺はいつの間に寝たんだろう。 カーテンから差し込む光が眩しく目を覚ました。 見慣れない殺風景な部屋の風景に、月城の家ということを思い出した。 そういえば、朝、雅人迎えに来るって言ってたけど、今何時なんだろう。 暖房も効いていてぽかぽか暖かく、布団から抜け出せず、布団のなかでスマホを開いた。 今はまだ朝の8時前らしい。 雅人からは昨日の夜届いていたメッセージが一件あった。 『騒がしくしてごめんね。 ルリくんに頼ってもいいから、寒くないようにして寝ろよ。 明日起きたら連絡して』 ああ、くそ。 また胸がきゅってなる。 俺あんなにひどいことしたのに、何でこいつはこんなに優しいんだろう。 『起きた。昨日は飛び出して悪かった』 雅人が優しいから、俺もいつもより素直になる。 たぶん、起きて隣に雅人がいないことに寂しくもあるんだと思う。 だって、今雅人のとなりのまだ亜夢さんがいたらいやだから。 『今電話へーき?』 俺からの連絡を待ってたんじゃないかって思えるほどのスピードで返信が来て、びくっとする。 ふーっと呼吸をおいて、雅人に電話を掛けた。 「もしもし、純也?」 ほんのワンコールで繋がった電話にやっぱり待ってたんだと思えてしまう。 「も、もしもし」 「ふふ。おはよう。昨日はよく眠れた?」 穏やかな雅人の声に、心臓はドキドキと鼓動を早め、息がつまる。 なにこれ、たった一日離れて寝ただけなのに。 「寝たよ。雅人は寝れたわけ」 「寝たけど、やっぱり純也が心配で何回も起きちゃったよ。 はー、早く10時になんねぇかな。 純ちゃんに会いたい」 「は?」  「迎えに行っていいでしょ?てか断られても行く。もう帰ってきて。 ルリくんに純也貸すの終わり。 もう十分癒されたでしょ?癪だけど」 まるで拗ねたような声を出す雅人に、ヤキモチのようだと、笑える。 自分の生徒相手に大人げないくらい拗ねてるくせに、10時まで人の家に訪ねないとか常識突き通すところも雅人らしいと思う。 「………雅人、あの亜夢さんって誰」 「亜夢?妹だよ?ややこしいところ見せちゃってごめんね?」 「俺、雅人がちゃんと亜夢さんのこととか、家のこと説明するまで帰らない」 自分でも子供っぽいこと言ってると思う。 でもどうしても、相手が妹さんだろうと雅人を好きだと言う人を穏やかな気持ちでは見れなかった。 ああ、やっぱりこれ、俺もうとっくに雅人に惚れてたんじゃん。 「……なにそれ。純也、それってまるでヤキモチ妬いてるみたいだよ?」 クスクス柔らかく笑う雅人の声が優しく耳に届く。 「うるせーよ。本当に帰らないからな」 「それはだめだってば。ちゃんと話すからとりあえず帰ってきて?」 「ごまかしたらぶっとばす」 「ふふ。怖い。でも元気出たみたいでよかったよ。ちょっと複雑だけどさ」 だから、ルリに妬くんじゃねーよ。やりづらいな。 「じゃあ、俺からも言うけどちゃんと千くんにもお礼言うんだよ。またあとでね」 「うん」 電話が切れると、ゆっくり布団から顔を出した。 普段使ってないのかほとんどものがない殺風景な部屋に、すこし寂しくなる。 雅人も、今寂しかったりするのかな。 そんなくだらないことを考えるのはやめにして、布団を畳んだ。 暖房のきいた部屋から廊下に出ると、ひんやり寒くて、ぶるっと体を震わせながらリビングに向かうと、なんだかいい匂いがする。 ゆっくりドアを開けると、ルリがカウンターキッチンで白地に水色のストライプ柄のシンプルなエプロンをつけてなにかを作っていた。 「ルリ」 「わ………っ、じゅ、純ちゃん、おきたの………っ」 ビクッと振り返った顔は赤く、なんだか焦ってるようだ。 「なんだその反応」 「や、なんでもない……おはよう純ちゃん」 まだ顔は赤いけど、ふんわり笑うルリの顔に、俺も気持ちが暖かくなる。 「……はよ」 「朝ごはんもうちょっとで出来るから、テレビ見ててねー。ホットミルクと、ココアどっちがいい?」 「ココア」 「はーい」 なにか手伝おうと思ったけど、料理なんてしたことないし、言われた通りソファに腰かけて、テレビをつけた。 ルリからもらったココアをひとくち飲むと口のなかにじんわり甘さが広がってほうっと息をついた。 「純ちゃん、き、昨日さ、よく寝れた?」 しどももどろキッチンで料理をしながら尋ねられ、素直におー、と頷く。 なんだか今日のルリは様子がおかしい。 「てか、昨日俺ルリと話してる途中で寝たよな。悪い。そっから記憶全然ないわ。ルリが運んでくれたの?」 振り返ってそう尋ねると、ルリがほっとしたように微笑んでテーブルに皿をおいた。 「んーん。千が純ちゃん運んでくれたんだよ」 「ふーん。あとでお礼言っとくわ」 「うん。純ちゃんと千が仲良くしてくれてると、オレもうれしいー」 ふにゃっと笑って、ルリがつけていたエプロンをはずした。 テーブルには、手のひらサイズのパンケーキが積み重ねられ、サラダやスープ、スクランブルエッグやハムやチーズ、ジャムが並べられていた。 「朝ごはんできたから、千起こしてくるねー。 純ちゃん先に座ってて」 それから少しうるさいくらいテレビのボリュームを大きくしてルリは部屋をあとにした。 お洒落で美味しそうな朝食に、目を輝かせる。 雅人も料理は上手だけど、俺はなにもできない。 雅人になにもかも甘えっぱなしだ。 どうして雅人はこんな俺なんかを好きだと言うのだろう。 「テレビ、うっせーな」 CMのでっかい音に少しボリュームを下げた。 そして、席につく前にトイレにいこうと廊下に出る。 「………っやだ……千、起きて……ん、純ちゃん、いるから……っ」 その瞬間聞こえてきたルリのあまい声に慌ててUターンしてリビングに戻った。 朝からなにしてんだよ!!! そして、ルリがボリュームをあげた意味がようやくわかり、俺も少し煩いくらいまで引き上げた。 ………そっか、あの二人、付き合ってるんだもんな。 付き合うって、そういうことか。

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