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コタツ

しばらくドキドキしながらテレビを流し見していると、3分くらいしてカチャッとドアが開いた。 「ごめんねー、千寝起き悪くて。お腹すいたよねぇ」 まぁ朝からするとは思えないけど、多少は絡まれたのだろう。 ルリがほんのり頬を赤くして、何事もなかったようにへらりと笑う。 「月城は?」 「顔洗いに行ってるよ」 またさりげなくボリュームを小さくして、ルリがコーヒーを煎れはじめた。 「おはよう、原野」 「あ、お、はよ」 遅れてやってきた月城は気だるげで、普段の3割増しに色気が溢れていた。 「先に食っててよかったのに。昨日は寝れたか?」 「え?ああ」 「千、コーヒーはいったよ。新聞もはい。取ってきといたから」 普段よりどこか刺々しい雰囲気でルリが月城にコーヒーと新聞を渡す。 月城はふっと意地悪く笑って、新聞を広げた。 「じゃあ、食べようか。 色々あるから、パンケーキ好きなのトッピングしてね」 俺のココアを入れ直すと、ルリは自分用に牛乳をいれて席につき、いただきますと、みんなで手を合わせた。 「純ちゃん、とるよ。なにがいい?」 「あ、サンキュ。スクランブルエッグと、ベーコン、あとチーズも」 「はーい。サラダとスープも食べてねー」 俺の分を取り分けると、次は月城の分を何がいいか聞きもしないで取り分ける。 なんか、夫婦みたいだ。 ルリだから男同士の付き合いに違和感を持たせないんじゃないか。 俺はどうなんだろう。 ルリの作ったパンケーキはふわふわで、何個でもぱくぱくいけた。 「そういえば純ちゃん、雅人さんに連絡した? 昨日しないで寝ちゃったでしょ?」 「したよ」 「そうなの。雅人さん大丈夫だった?」 俺の口元についてたチョコレートシロップを指でとって、それをなに食わぬ顔でぺろっと舐めるとルリにドキっと、させられる。 月城のヤキモチを買うんじゃないかって意味で。 「10時に迎えに来るって」 「へー、もうすぐじゃん。早く雅人さんに会いたいねぇ純ちゃん」 ニヤニヤと笑うルリにムッとする。 別に早く会いたいとか思わねーし。 さっさとばくばく食べて、ごちそうさま!と手を合わせると、ルリがお粗末さまと笑う。 月城も食べ終わり、テキパキと片付けを始めるルリを今度は手伝った。 「純ちゃん、座ってていいのにー」 「いや……てかさ、今度俺に料理教えろよ」 「うん?オレなんかのレベルの料理でいいなら全然いいよー。何作ろっかー」 「パンケーキ」 別に、あのパンケーキがうまかったからまた食べたいだけで、雅人のためじゃない。 「そんなに気に入ってくれたの?」 嬉しい、と笑いながらルリはカチャカチャ軽く食器を洗って、洗浄機に並べる。 最後にシンクを綺麗にふく辺り、本当によくできたやつだと思う。 「雅人さんとなんて話し合うの?」 「亜夢さんについて?あと雅人の家庭のこと」 「あんまり感情的になったらダメだよ? 雅人さんは純ちゃん大好きなんだから安心して落ち着いてね」 「……うん。ルリ話聞いてくれてありがとう」 「いーえ。こちらこそ頼ってくれてありがとー」 ちょうどお湯が沸けて、ルリが三人分の新しい飲み物をいれる。 ココアふたつと、コーヒーひとつ。 それから確かこの辺にクッキーがあったはずだと棚を探し始めた。 「このコーヒー月城に持ってくぞ」 「うんありがとー。火傷しないでね」 テーブルにおかれたコーヒーを持ってソファで新聞を読む月城に届けた。 さんきゅ、と新聞から顔をあげて言う月城にお礼を言うなら今だよなと意を決した。 「ルリと二人で過ごせる週末にいきなり押し掛けて悪かったよ。泊めてくれてありがと」 「は。お前が素直だと気持ち悪いな」 「ああ!?てめぇひとがせっかくお礼いったのに!!」 クスクス笑う月城がムカつく。 さっさとその場を離れようとすると、手を捕まれた。 「気にすんなよ。リチェールのことよくしてくれて、俺もお前に感謝してる。 これからもあいつをよろしくな」 優しく笑う月城に、ああルリが付き合ってるのが月城でよかったと思えた。 ルリが大切だから俺もよくしてくれる。 月城は本当に大人だ。 俺も、本来は雅人が大切なら、こんなモヤモヤする感情を妹である亜夢さんに向けるのはすごくガキっぽいことだと思う。

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