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喧嘩とクリスマス
リチェールside
早くも季節は12月になって、明日から冬休みが始まる。
そしてなによりも、
「じんぐーべーじんぐーべーすずーがーなるー」
街中を楽しそうに親子で歌いながら歩く風景に胸が暖かくなる。
明日はクリスマスだ。
何をプレゼントするかはもう決まっていた。
「これプレゼント用に包装お願いします」
「畏まりました。10分ほどいただきますがよろしいですか?」
「あ、はい大丈夫です」
「先にお会計失礼します。
お客様のお会計税込み価格12960円となっております」
カウンターに出すと、男性スタッフが人当たりのいい笑顔で答えてくれた。
ジッポのライター。
喫煙を促す訳じゃないけど、この間今まで使っていたジッポが古くなって来たって言ってたし、いつも持ち歩いてほしいから。
財布や時計かも迷ったけど、今千が使ってるものの値段はこえられそうにない。
キーケースですらちょっと手が出せないブランドだった。
値段は少し背伸びしたけど、最近バイト頑張ってるし、普段たくさんおごってもらってるし、何よりすごくすごくお世話になったから。
「お客様、大変長らくお待たせしました。こちらお品ものとなっております」
包装の終わった小さい紙袋を受け取ると、スタッフに会釈をして店を出た。
オレのために頑張ってくれた千へありがとうの気持ちを込めて、初めてのクリスマスは最高なものにしたい。
クリスマスのメニューは、シチューとローストチキンと、それからケーキ。
そういえば、こっちってクリスマスケーキといえばクリスマスプディングじゃないんだよな。
作った事ないけど、レシピ見てみて出来そうなら作ってみようかなぁ。
考えると楽しみだな。
思わずにこにこしながらクリスマスカラーの街を歩いていると街の雰囲気に似合わない揉めた声が聞こえてきた。
ひょこっと覗きこむと、カート販売してたお花のブーケがお客さんに当たって落ちてしまったらしく、その口論がされていた。
「道端でこんなもん売ってるのが悪いんだよ!!」
当たった男は悪びれる様子もなく怒鳴り散らし、女子高生くらいの女の子はどうしていいのかわからず目に涙を溜めて固まっていた。
たぶんバイトだから、お代は結構ですと言っていいのかも判断できないのだろう。
街ゆく人はそこを避けていて見て見ぬふりだ。
「あの、それオレ買いますよー」
「ああ!?」
声をかけると、男と女の子は同時に振り返り、柄悪くオレを睨む男より泣きそうな女の子と目を合わせて笑ってみせた。
「ちょうど欲しかったんです。その落ちたのでいいんでください。いくらですか?」
「え、あ、あの……」
申し訳ないと思うのかあたふたする女の子に、いいから、と笑うと、2500円と書かれたプライスカードを見つけ、財布から五円札取り出した。
「おつりはいいから、帰りに甘いのでも買って帰るんだよー。寒い中お疲れさま」
「い、いえ、おつりは!」
「いいのいいの。もう少しでクリスマスだし、女の子にカッコつけたいだけだからー」
「ありがとうございます!」
そう言うと、女の子はぺこぺこ頭を下げてお礼を言う。
男は居心地悪そうにふんっと鼻をならしオレに肩をぶつけて行ってしまった。
「私のせいですみません…」
「どうして君のせいなのー?オレは男だからあれくらいなんともないよー。またね」
「あの、本当にありがとうございました!」
ばいばいと、女の子に手をふって形の崩れたブーケを片手に帰り道を歩く。
オレの家も千の家も花瓶ないし、ドライフラワーにでもしようかな。
明日は土曜日だから、今日は千の家にお泊まりだと浮き足たってるのが自分でもわかる。
プップーとクラクションが鳴り、音のなった方を振り返ると、見慣れた車から大好きな人が手をあげていた。
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